カワサキのW3は、わが青春のバイク小説とともにいつまでも心に残る名車中の名車です。バイク小説といえば、団塊の世代にも通じる小説家・片岡義男さんのことです。いまも記憶に残り続けるバイクファンは数知れないことだと思います。
「彼のオートバイ、彼女の島」のモデル
「彼のオートバイ、彼女の島」のモデルになったバイクが排気量650㏄のカワサキのW3です。主人公の青年がツーリングしているシーンから始まる同名の映画も、とても印象深く心に残っています。彼女と温泉の露天風呂に入る有名なシーンなどさえ、バイクの存在を忘れずにスクリーンに見入ったものです。
「彼のオートバイ、彼女の島」のオープニング
この小説と映画(共に角川)がきっかけになり、すっかりカワサキのファンなってしまったものです。作品にあるような女の子との出会いがあるのではないかと空想しながら遠出のツーリングをよくしたものです。
「男のバイク」の感覚
片岡義男さんの数多くの小説作品ですから、バイクは1970年代製のものだというのは、定番です。よきバイクの時代とも言えます。登場したときの1973年製の650RS(W3)は、マッハ系のダブルディスクブレーキが採用されて、4サイクルOHV並列2気筒。タンクのエンブレムは黒字に白抜きで、あこがれの的でした。前モデルのW1を進化させて、安全性が高まったと紹介されていたモデルです。
正々堂々といったイメージの外観と走りの特徴を持っていました。当時は、がっしりといかついとの印象を持っていたのですが、今の目から見ると案外に細身です。パワーそのものとか、制動能力とかのスペック上での格付けをするより、はるかにカワサキバイクの持つ、「男のバイク」の感覚が、なんとも言えない魅力がありました。
マシンスペックばかりがバイクの魅力ではない
キックして始動させるときの、腹に響く音は、ツーリングに出かけるときの武者震いにもちょっと似たハードボイルドな感覚を味わったものです。クルマやバイクの少ない国道を走っているときに、前からバイクが走ってくると、向こうのライダーがちょっとだけ片手を上げて、すれ違いざまのあいさつを送ってくれる事が良くあったものです。相手もこのバイクのファンなのか敬意を表してくれているように勝手に解釈して楽しんでいたものです。
カワサキW3のサウンド
カワサキW3は、片岡義男さんの小説でも映画でも、夕方や夜に走る姿も描かれていました。日中の日差しの中でみるW3の美しい勇姿も大好きですが、陽の落ちた道をワインディングするW3のイメージもまた素晴らしく旅情に満ちたものだと思います。マシンスペックばかりが、バイクの魅力ではないと確信させてくれる名車がカワサキW3だと思っています。