スバル車と聞くとレガシィやインプレッサ、レヴォーグを思い浮かべる人が多いと思います。今やスバルは生産が追いつかないくらいの大人気な自動車メーカーになりました。ところでその昔、スバルが4WDクーペを販売していたのをご存知でしょうか?
その車の名前はアルシオーネSVX。もしかしたら名前くらいは聞いたことがあるかもしませんね。私の購入した車種はS-3という500台の限定生産車で、色はグリーンメタリックでした。
国内販売台数は6年で5,884台
1991年から1996年まで販売されていましたが、6年で5,884台の販売台数なので、全部が限定車みたいなモノですが…。この台数の少なさゆえに名車ではなく珍車と呼ばれることもありました。
アルシオーネSVXの最大の特徴は、その流麗なデザインにあります。何しろカーデザイナーの巨匠:ジョルジエット・ジウジアーロのデザインなのですから、カッコ良くないワケがありません。
ジョルジエット・ジウジアーロのデザインで有名なのはタイムマシーンにもなったデロリアンですが、アルシオーネSVXもデロリアンと同じように窓が半分くらいしか開きません。ほとんどスーパーカーみたいな車でした。
思い返せば、小学生の頃に初めて「なんだろ、このカッコいい車は?」と衝撃を受けたのが、いすず117クーペでした。その後、カッコ良さに痺れたのがいすずピアッツアでした。あとになって知るのですが、奇しくも両車ともジウジアーロデザインでした。
モーターショーで初めて観た瞬間
そしてアルシオーネSVXの登場です。モーターショーで初めて観た瞬間、そのカッコ良さにもうノックアウトでした。アルシオーネという車名の車はSVXの前にもありました。初代アルシオーネもクーペでしたが、レオーネのシャーシに角張ったクーペデザインを纏っていましたが、正直、洗練されているとは言いがたいモノでした。
最近のホンダ車が「ガンダム顔」と言われていますが、初代アルシオーネは「ガンダムのつま先」と一部であだ名がついていたくらいですから。そんなワケで2代目のアルシオーネSVXは、誰が見てもカッコ良いデザインを纏ったので、スバルの意地を見せられた感じです。
さて、すっかりアルシオーネSVXに魅せられたとはいえ、バブル経済真っ盛りの中で高機能スペシャリティクーペとして販売されたアルシオーネSVXは、当時としてはとんでもない高価格で、若造には手が出ない価格でした。
アルシオーネSVXが生産中止に
憧れが憧れのままで終わるのは、世の中には、よくあることです。そんなワケで数年が数年が過ぎた頃、自動車ニュースで「GMとの提携を機にアルシオーネSVXは生産中止」と知りました。
「とうとう生産中止か」と感慨深くなり、たまたまスバルディーラーの前を通ったところ、まさかまさかの出会いがありました。そのディーラーの中古車コーナーに珍しいメタリックグリーンのアルシオーネSVXが佇んでいたのです。
緑色のアルシオーネSVXは、まるでシトロエンのXMがクーペになったような感じで、ひときわ煌きを放っていました。まるで初恋の彼女が同窓会で再開したら、すごく美人に成長していたようでした。
値札は210万円でした。しかも最終モデルに近くて2年落ちでまだ新しいのです。「今なら買えない値段じゃないよな・・・」との思いがアタマをよぎりました。
そして当時、乗っていた車は2週間前の車検を通したばかりなのに、数日後にはアルシオーネSVXを契約していました。(家族からは「車なんか衝動買いなんかして、お前はバカか?」と罵られましたが・・・)
さて、暫くしてアルシオーネSVXが納車されました。さっそく乗り込むと、低い車高に憧れの半分しか開かない窓に、3,300ccのフラット6エンジンに、可変トルク配分のややこしい制御をした4WDに感動しました。
どんどんトルクが溢れてくる
何しろアクセルを踏んでもトルクのピークを感じられずに、どんどんトルクが溢れてくるようでした。フラットトルクというのを実感しました。「きっとアムロがガンダムに初めて乗った時は、こんな風にパワーを感じたんだろうな」と変な共感を覚えました。
嬉しくてアチコチを走り回りましたが、翌月のガソリン代の請求書が5万円を越えていたので、ビックリしました。「美人はお金が掛かるとはよく言ったものだ」と高額な請求書を握り締めながら自分を慰めました。
しかし、アルシオーネSVXのスゴさは、長距離を走ってこそ、初めて分かるのです。スバ抜けて高い走行性能は、何百キロ走っても疲れないのです。バカが付くほどマジメなスバルは、アルシオーネSVXを本当の意味でグランドツーリングカーに仕上げたのです。
そういえばCMでのコピーも「500miles a day」でした。つまり本気で1日に500マイル=800キロを走れる車を造り上げたのです。
アルシオーネSVXのCM
10年乗り続けましたが
すっかりアルシオーネSVXの擒になった私は、それから10年、乗り続けました。デザインといい、生い立ちといい、性能といい、SVXを越える自動車に出会えなかったのです。
残念ながらマイナー車の宿命か故障箇所の部品が手に入らず、泣く泣く手放すことになりました。何しろ他社種との部品共有をしなかったので、ほぼ専用部品だったのです。
振り返るとアルシオーネSVXという車は空前のバブル景気でお金が潤沢にあったあの時代だからこそ造る事ができた車だったのです。アルシオーネSVXと共に過ごした思い出はきっと一生、心の中に残っていくでしょう。