かつてイタリアに存在していた自動車ブランド、アウトビアンキは、フィアット傘下にあった1973年にホットハッチ「A112アバルト」をリリースしました。1969年に発売された小型ハッチバック車「A112」をベースに、文字通りアバルトの手によりチューニングが加えられたモデルで、小排気量ながらも上級モデルに匹敵する走行性能を誇りました。
初期型は最高速度150km/hの性能
ボディタイプは標準モデル同様3ドアハッチバックのみの設定で、スタイリングもディテールは一部異なっていたものの、直線基調のスクエアなフォルムや丸型2灯式ヘッドランプ採用のフロントマスクなど、基本的には標準モデルと共通でした。ボディ・ディメンションは全長3,230mm×全幅1,480mm×全高1,340mm、ホイールベース2,038mmで、全高が標準モデルより20mmローダウンされていました。
また、車両重量は標準モデルとほぼ同等の660kgに抑えられていました。駆動方式は通称「ジアコーザ・レイアウト」と呼ばれる横置きFFで、エンジンは標準モデルの903cc直4OHV(最高出力42ps/最大トルク7kgm)に代わり、982cc直4OHVウェーバー・シングルキャブレター仕様(最高出力59ps/6,600rpm・最大トルク7.4kgm/3,800rpm)が搭載されました。
トランスミッションは4速MTが組み合わせられ、最高速度150km/h・0-400m加速19.4sの性能を発揮しました。サスペンション形式は、標準モデル同様のフロント:マクファーソンストラット/コイル式・リア:横置きリーフ・リジッド式が踏襲されました。また、ブレーキはフロントにディスク式、リアにドラム式が採用されました。
ステアリング形式はロック・トゥ・ロック3.4回転のラック&ピニオン式で、標準モデル同様ターニングサークル8.9mの小回り性能を持っていました。タイヤサイズも標準モデルと共通で、135SR13サイズの細いラジアルタイプが装着されていました。室内は、水平基調のインパネに長方形のメータークラスターが備わり、ステアリングは2本スポーク式が装着されていました。
排気量アップで性能が向上
その後1975年に、エンジンの排気量が1,050ccに拡大されました。従来よりも大幅に高められた圧縮比と1基のウェーバーキャブレターによるアウトプットは、最高出力71ps/6,600rpm・最大トルク8.7kgm/4,200rpmまで向上していました。車両重量は700kgに増加したものの、4速MTとの組み合わせによる最高速度は160km/hに達しました。
さらに翌1976年には、トランスミッションが5速MTに変更されました。次いで1981年、カロッツェリア・ピニンファリーナの手によりフェイスリフトが実施されました。そして1985年、標準モデルともども生産終了となりました。アバルトA112はマニアの間で人気を集め、日本市場でもジャクスの手により輸入が行われました。