いすゞのクロスオーバーSUV「ビークロス」は、1993年の東京モーターショーに展示されたショーモデル「ヴィークロス」をベースに開発され、1997年4月に発売が開始されました。乗用車とSUVを融合させたユニークなコンセプトにより、現在流行しているクロスオーバーSUVの先駆け的存在となるなど、生産台数は少ないながら独自の個性を放つモデルでした。
既存のプラットフォームに斬新なボディ
スタイリングは、現在はGMに在籍するサイモン・コックスによるデザインで、他のどのSUVとも似ていない斬新なものでした。曲線的なボディラインを持つ3ドアボディは、うねるように連続する張り出した黒色FRP製前後フェンダーや、異形ヘッドランプカバー採用による独特なフロントマスク、スペアタイヤを内蔵したテールゲートなど、全身が個性の塊のようなデザインでした。
プラットフォームは本格SUV「ビッグホーン・ショート」のものを流用し、前後トレッドや2,330mmのホイールベースも同一でした。ボディサイズは全長4,130mm×全幅1,790mm×全高1,710mmで、ビッグホーン・ショートよりも一回り小さく、車両重量も200kg以上軽い1,790kgでした。サスペンション形式もビッグホーンと同一で、前ダブルウィッシュボーン式/後4リンク式が踏襲されました。
エンジンは改良型を搭載、装備も充実
エンジンは、これもビッグホーンに搭載されていた3.2L V6DOHCガソリン仕様の6VD1型に改良を加えたもので、最高出力は200psから215psへ、最大トルクは27kgmから29kgmへと向上が図られました。トランスミッションは4速トルコン式ATが組合わせられ、駆動方式はビッグホーン同様の電子制御トルクスプリット式パートタイム4WDが採用されました。
インテリア面では、ダッシュボードは曲線的なデザインを持つ専用設計のものでしたが、アバンギャルドなエクステリアに比べると相対的にオーソドックスな雰囲気でした。装備面では、MOMO製ステアリングやレカロシート、バックアイカメラ連動モニターなど、充実した装備を備えていました。
同年11月に、ボディカラーとして従来用意されていた5色に20色を加えた「プレミアムカラープロデュース25」がオプション設定されました。1999年2月には、翌月に販売終了を控えた事に伴い、内外装の一部を仕様変更した175台限定販売モデル「175リミテッドエディション」が発売されました。
ビークロスは、当初から少量販売を前提に発売され、セミハンドメイド方式で生産されました。又、極めて個性的かつ趣味性が強いモデルであった為、2年弱の生産期間における販売台数は1,700台程に留まりました。一方、北米市場では国内市場より販売が好調で、輸出仕様の3.5Lエンジン搭載モデルが2002年まで生産されました。