外国車のメーカーのメカニックをしていた頃の事です。1980年代前半の事です。メカニックを兼任でユーザーの苦情処理を担当しながら、市場技術情報をインポーターに報告する業務も行っていました。当時インターネットは普及しておらず、インポーターの苦情担当者は4か月に1度の間隔で来店をして、情報を提供する事で各工場の技術の向上と品質改善を担っていたようです。
ブレーキ鳴きの苦情が多発
そんな中で、ある車種が発売当初より、苦情が多発したのです。それが、ブレーキ鳴きの苦情でした。主にフロントブレーキの苦情でした。日本国内での苦情や、不具合は、ある一定量に達しないと、メーカーは対応してはくれませんでした。人命に関わる様な、安全面以外は機敏な対応に繋がりませんでした。
苦情を提出して翌年になっての対処はよくあることでした。整備の立場からは、いろいろな処理は行っていました。ブレーキパッドの当たり面加工や、音止めシートの取り付けの対応を数多く行ないました。ユーザーによっては苦情も様々です。信号停止のために停止寸前の時や、カーブなどの減速目的のブレーキの時など条件で様々です。
全国で多く発生しているにも関わらず、メーカーの対応は「材質を変更した」の返答で部品を替えてみても、症状の改善にはなりませんでした。最悪なケースは車を返却したユーザーもいた程です。顔を真っ赤にして怒鳴り込むユーザーも多く居ました。
確かに症状の酷い方は、停止する手前300メートルの間、ブレーキが鳴き続けるのです。その音はかなりのカン高い音です。街中や、住宅密集地で発生すれば、周辺の人の注目の的となってしまう位大きな音でした。車が安っぽく見えてしまうのです。それでもメーカーの対応はお粗末と言って良いほどでした。
発売から3年位経過し
変化が起きたのは、発売から3年位経過した頃です。メーカーからの返答に驚かされました。内容は、「日本の車は、ブレーキ鳴きは起こさないが停車距離が長く、緊急停止できない。」の返答でした。日本車での走行テストを行ったらしく、制動力の違いを指摘してきたのです。極論で言えば、ブレーキは鳴いても、制動力が良ければ命を救える可能性が高まるという考え方です。
整備の立場から見ると、確かに海外メーカーのブレーキ部品の消耗は早いです。その結果、停止距離の短さや、イザと言う時の安心感が高い事は事実だと思います。制動力が高く、ブレーキング時に鳴かない部品が開発出来れば最高なのですが、当時の技術では鳴きか制動力、二者択一だったのかもしれません。彼らは制動力を重視したのでしょう。