シトロエンのアッパーミドルセダン「DS」は、1934年に発売された「トラクシオン・アヴァン」の後継モデルとして1938年に開発が始められ、第二次世界大戦による中断があったものの戦後開発を再開、1955年10月に開催されたパリショーで市販モデルがデビューを果たしました。先進的なボディ構造・スタイリングやメカニズムを採用した、時代の数歩先を行くモデルでした。
宇宙船のようなスタイリング
車体の構造は最小限の骨格の上にボディパネルを貼り付けた斬新なスケルトン構造で、サッシュレス4ドアを採用したボディは空力特性を追求した流麗なフォルムを備えていました。その前衛的なスタイリングは当時他に類を見ないもので、人々から「宇宙船」と揶揄されました。初期型のボディサイズは全長4,810mm×全幅1,790mm×全高1,470mmで、トラクシオン・アヴァンより一回り拡大されていました。
又、ホイールベースは3,125mmと極めて長く設定されていました。車両重量は、FRP製ルーフやアルミ製ボンネットの採用などにより、ボディサイズの割に軽量な1,215kgに抑えられていました。そしてサスペンションやトランスミッション、ステアリング、ブレーキといった可動機構部には、油圧制御による独自のハイロドーリック・システムが採用されました。
ハイドロ・ニューマチック・サスペンションを採用
それらのうち最も画期的だったのはサスペンションで、形式上はフロントがハーフウィッシュボーン式、リアがトレーリングアーム式と格別珍しいものではなかったものの、一般的な自動車のような金属バネの代わりにガスとオイルを用いた「ハイドロ・ニューマチック・サスペンション」を備えていました。又、ブレーキは前輪に量販モデル初となるディスクブレーキが採用されました。
駆動方式はトラクシオン・アヴァンで実績のあったFFが採用され、エンジンは当初3.5Lフラット6が搭載される計画であったものの開発費の問題から見送られ、トラクシオン・アヴァンに搭載されていたユニットを改良した1.9L直4OHVシングルキャブレター仕様(最高出力75hp/最大トルク13..5kgm)が採用されました。このエンジンは、未来的なDSで唯一時代相応の部分となりました。
一方トランスミッションは先進的で、前述のハイドローリック・システムによりシフトとクラッチの制御を行う4速セミATが採用されました。そして1957年に、ハイドローリック・システムをサスペンションのみに用いた廉価版の「ID19」が追加されました。トランスミッションは通常の4速MTとなる他、エンジンのスペックも63hp/66hpにデチューンされていました。
ワゴンやカブリオレを追加
次いで1958年にこのID19をベースとしたワゴンと、DS19にエアコンや本革シートを追加した豪華版の「プレステージュ」が追加されました。更に1960年には、DS19をベースにボディを2ドアオープン仕様とした「カブリオレ」が追加されました。続いて1965年、DS19がエンジンの排気量を2.2L(最高出力109hp/最大トルク17.7kgm)に拡大した「DS21」に切り替えられました。
次いで1967年にマイナーチェンジが行われ、ヘッドランプがそれまでの2灯式から、内側2灯がステアリングに連動して向きを変えるガラスカバー付の4灯式に変更されました。続いて1972年には、DS21に代わり排気量を2.3Lに拡大した「DS23」が登場しました。エンジはキャブレター仕様とインジェクション仕様が用意され、後者のスペックは最高出力130hp/最大トルク19.9kgmでした。
そして1974年のパリサロンで後継モデル「CX」がデビューした事を受け、DSシリーズは翌1975年4月をもって生産終了となりました。