フィアットは1998年、初代「ムルティプラ」が生産終了になって以来32年ぶりに同じ車名を持つMPVをリリースしました。4mを切る短い全長と1.9m近いワイドな全幅を持つ特異なボディ・ディメンションや、前席3人と後席3人分のセパレートシートが備わる独特なシートレイアウトを持つ事が特徴でした。
個性的な内外装
5ドアハッチバックボディのスタイリングは、初期型においてはハイビームヘッドランプをフロントウィンドウ下部にレイアウトした独創的なフロントマスクが備わり、広大なガラスエリアを持つグリーンハウスと相まって極めて個性的な雰囲気を醸していました。欧州仕様のボディサイズは全長3,994mm×全幅1,871mm×全高1,670mmで、ホイールベースは2,666mm、車両重量は1,300~1,370kgでした。
駆動方式はFFで、エンジン及びグレード体系は、当初1.6L直4DOHCガソリンNA(最高出力103ps/最大トルク14.7kgm)の「100 16V」と1.9L直4SOHCディーゼルターボ(最高出力105ps/最大トルク20.4kgm)の「105JTD」が用意されました。トランスミッションはインパネシフト式5速MTのみの設定で、ATは最後まで用意されませんでした。
サスペンション形式は、フロント:マクファーソンストラット式/リア:セミトレーリングアーム式で、ブレーキはフロントがベンチレーテッド型の4輪ディスク式が採用されました。一方インテリアは、前述のシートレイアウトに加え、外観に劣らぬユニークなデザインとカラーリングのインパネが備わっていました。
追って、新たなバリエーションとして1.6L直4DOHC LPGガスエンジン(最高出力95ps/最大トルク13.6kgm)を搭載する「100 16Vブルーパワー」が追加されました。その後ディーゼルモデルに改良が加えられ、2000年に最高出力を110psに高めた「110JTD」に、更に翌2001年に最高出力115ps/最大トルク20.7kgmまでアウトプットを高めた「115JTD」に移行しました。
フェイスリフトで外観を一新
次いで2004年のフェイスリフトでフロント廻りがコンパクトカー「プント」に類似したオーソドックスなデザインに変更され、フロントウィンドウ下部のハイビームヘッドランプも廃止されました。同時に、全長が拡大され4,080mmとなりました。続いて2006年には115JTDに代わり、アウトプットを最高出力120ps/最大トルク21kgmに高めた「1.9マルチジェット」が設定されました。
そして2010年、後継車種が発売される事なく生産終了となりました。日本市場においては、初期に並行輸入会社によりガソリン及びディーゼルモデルが少数輸入された後、2003年4月から正規輸入代理店のフィアットオートジャパンによりガソリンモデル「ELX」の導入が開始されました。追って同年12月に上級グレード「ELX-Plus」が追加され、2004年11月にフェイスリフト版に切り替えられました。
ムルティプラ (2代目 2003)の口コミ評価/新車購入インプレッション
2003年式のフィアット・ムルティプラ(型式GH-186B6)に乗っていました。フィアットとアルファロメオを扱う正規ディーラーで、新車で購入した物です。購入価格は、総額で300万円程で、1.6L車として見れば高価だったかもしれません。
他に類を見ないユニークなスタイリング
この車には、価格云々や性能云々を超えた、独自の魅力がありました。それは、何と言っても、他に類を見ないユニークなスタイリングです。イルカのようなフロントマスクと、ハイビームヘッドライトがフロントウインドウの下に付いている奇抜さ、金魚鉢のように異様に大きいサイドウインドウなど、とにかく個性の塊のようなデザインに、すっかり惹きつけられてしまったのです。
しかし、最初から良いデザインだと思った訳ではなく、第一印象は「なんだこれは!?」でした。それなのに、見れば見る程何故か惹かれてしまう、不思議な魅力にはまってしまいました。そして、最初はルノー・カングーを購入するつもりでいたのに、いつの間にか本命はこのムルティプラになっていました。
ただ、購入に当たっては、マニュアルミッション仕様しかない点や、全幅が広く、1,875mmもある点が気掛かりになっていました。しかし、試乗の際に実際に狭い路地を走ってみると、見切りが良いので、意外と幅の広さを持て余さずに済みました。又、久しぶりのマニュアルミッションにも直に慣れてしまったので、これなら足代わりのマイカーとして十分いけると確信しました。そして、契約してから約1か月程経った紅葉シーズンのある日、ムルティプラが納車されました。
早速、紅葉ドライブに出掛けたのですが、山道の上りでいきなり渋滞に巻き込まれ、坂道発進の連続という試練を受けました。でも、それも何とか乗り切り、道路が空いてくると、マニュアル車ならではの運転の楽しさを存分に満喫しました。
決して速くはないけど
動力性能としては、結構重い車体に1.6LのNAエンジンですから、決して速くはないのですが、コクコク決まるシフトを操作しながらエンジンをぶん回して走る楽しさは、格別でした。又、トレッドが広い為かコーナーリングも安定感があり、安心して山道を飛ばす事が出来ました。
難点を挙げるなら、車両重量の割に低速トルクが十分でないので、スタート時に気を抜くとすぐにエンストしてしまう事と、シートのバックレストがタイトで、長時間運転していると背中が痛くなる事でした。それでも、奇抜なスタイリングと運転の楽しさを併せ持っているので、魅力の方が上回っていました。スタイリングの話をすると、道行く人が指を指して笑っていた事もありますが、それもむしろ愉快な事と捉えていました。