マセラティは1973年、1966年に発売された高級スポーツカー「キブリ」の後継モデルとなる「カムシン」を発表しました。FRの駆動方式を踏襲しながら、2シーターであったキブリに対しミニマムなスペースながらリアシートが備わる2+2仕様に変更されました。又、親会社であったシトロエン製の「ハイドローリック・パワーアシストシステム」が採用された事も大きな特徴でした。
ウェッジシェイプのスタイリング
ボディのデザインを手掛けたのは、キブリがギア時代のジウジアーロであったのに対しカムシンはベルトーネ時代のガンディーニで、そのスタイリングはウェッジシェイプが強調されたシャープなものでした。又、独立したトランクルームを備えていたキブリに対しガラスハッチが設けられた事と、デザイン上から生じる後方視界の悪化に対処する為、リアエンドパネルがガラス張りとされた事が大きな特徴でした。
ボディサイズは全長4,394mm×全幅1,956mm×全高1,194mmで、キブリから全長が300mm程短縮された一方で全幅は150mm程拡大された、ショート&ワイドなプロポーションを備えていました。又、ホイールベースは同一の2,550mmであった為、前後のオーバーハングは大幅に短縮されました。車両重量は1,680kgで、「キブリSS」よりも330kg重くなっていました。
功罪のあったハイドローリックシステム
サスペンション形式は、フロントはダブルウィッシュボーン/コイル式を踏襲し、リアは古典的なリジッド/リーフ式であったキブリに対し、フロントと同じダブルウィッシュボーン/コイル式による独立懸架に改められました。又、ステアリングはキブリのリサーキュレーティング・ボール式から、ラック・アンド・ピニオン式に変更されました。ブレーキは4輪ディスク式が踏襲されました。
そして、ステアリングのパワーアシストやB/Cペダルの倍力装置、リトラクタブルヘッドランプの開閉などは、前述の油圧式ハイロドーリック・パワーアシストシステムにより行われました。しかし、エンジンにパワーロスが生じる事や信頼性の低さが問題点となりました。フロントに搭載されるエンジンは、キブリSSからキャリオーバーされた4.9L V8DOHCユニットでした。
スペックは最高出力320ps/5,500rpm・最大トルク48.9kgm/4,000rpmで、キブリSSから最高出力が15ps、最大トルクが0.1kgmドロップしていました。トランスミッションは、ZF製5速MT若しくはボルグワーナー製3速トルコン式ATが組み合わせられ、トップスピードは前者が275km/hで、後者はそれよりも大幅に低い209km/h(北米仕様のデータ)でした。
カムシンは、大きな仕様変更のないまま1982年まで生産が継続されたものの、販売面では振るわず総生産台数は421台に留まりました。