かつて、フォルクスワーゲン・タイプ1(ビートル)を所有していた事があります。1974年式の「1200LS(型式110AD)」というタイプで、1.6Lのソレックスキャブレター仕様エンジン、トーションバーサスペンション仕様のモデルです。
空冷ワーゲンを専門に取り扱う店で、中古で85万円で購入しました。中古と言うよりも、むしろビンテージといった方が正解かもしれません。色は鮮やかなレモンイエローで、「黄色いビートル(タイプ1)を見掛けると幸せになれる。」というかつての都市伝説に、多少なりとも影響されていたかもしれません。
その前は、新車で購入した日産マーチに乗っていたのですが、乗り易くて使い勝手も良く、勿論故障もしないので、実用の道具として申し分ありませんでした。しかし、あまりにも出来が良過ぎて、車好きとしては何処か物足りなさも感じていました。
すっかり空冷ワーゲン・ワールドにはまって
そんな折、書店の車関係の雑誌が置いてあるコーナーで、ふと見掛けて手にしたのが、空冷フォルクスワーゲンの特集ムックでした。この本を購入してから、すっかり空冷ワーゲン・ワールドにはまってしまい、どうしても欲しくなってしまいました。そして、ついにまだ2年も乗っていなかったマーチを手放して、フォルクスワーゲン・タイプ1を購入する事に決めました。
空冷フォルクスワーゲンには、タイプ1の他にタイプ2やタイプ3、カルマンギアなど様々なタイプがありますが、元祖であるタイプ1のユニークかつ機能的なデザインに惹かれ、このモデルに決定したのです。
一言でタイプ1と言っても、本国だけでもおよそ30年に渡って生産された車種なので、様々なバリエーションがありますが、少しでも高年式の方が乗り易く、故障のリスクも少ないと思い、所謂「ビッグテール」と呼ばれるモデルの中から、1200LSを選びました。
空冷フラット4独特のバサバサという乾いた排気音
このタイプ1を運転した際の最大の魅力と言えば、空冷フラット4独特の、バサバサという乾いた排気音です。人間の心臓の鼓動にも似たビートが感じられ、生理的に非常に心地よく感じられるのです。
馬力は50馬力に過ぎませんから勿論鈍足なのですが、一般道では実用上十分な性能がありますし、そもそもが飛ばそうなどという気持ちは全く起きません。スピード違反とは無縁という点でも、精神衛生上好ましいキャラクターの車でした。
欠点は色々ありますが
欠点は、古い車だけに色々とあり、室内が狭い事や、高速道路でのパワー不足、RR方式故の直進安定性の低さなどが挙げられました。しかし、唯一無二と言えるスタイリングやエンジンのフィーリングの魅力からすれば、それらは些末な欠点と感じられ、気になりませんでした。
ただ、ビンテージカー故に故障は多く、1年のうち半分近い期間は修理工場に入院しているような状況でした。それでも、「出来の悪い子程可愛い」とよく言われるように、不思議と愛着が薄れる事はありませんでした。