イギリスの高級スポーツカーメーカーであるアストンマーティンは、2010年3月に高級コンパクトカーのコンセプトモデル「シグネット・コンセプト」を発表、翌2011年10月に市販バージョン「シグネット」の予約受付を開始しました。かねてより企業平均燃費(CAFE)を向上させる必要性を感じていた同社が、偶然社長同士が親しくなったトヨタ自動車の手を借り実現したモデルでした。
ベースモデルはトヨタ iQ
ベースモデルとなったのはトヨタ自動車最小の登録車「iQ」で、日本の工場からアストンマーティン本社工場に輸送されたiQ完成車の内外装に、ハンドメイドによりあらためて手を加える生産手法がとられました。3ドアハッチバックボディの基本的なフォルムはiQ譲りであったものの、ボディパネルの大半が専用設計となっていました。
ことに、フロントマスクにはアストンマーティンの高級スポーツカーに共通する造形を採用、iQとの明確な差別化が図られました。ボディ・ディメンションは全長3,078mm×全幅1,680mm×全高1,500mm、ホイールベース2,000mmで、iQと比較すると全長が93mm延長されていました。車両重量は988kgで、同一仕様のiQから40kgほど増加していました。
1.3Lエンジン+6速MTまたはCVTを搭載
駆動方式はiQ同様FFのみの設定で、エンジンはiQに用意される1L直3DOHCと1.3L直4DOHCのうち、後者がチョイスされました。アウトプットは最高出力98ps/6,000rpm・最大トルク12.7gm/4,400rpmで、iQから4ps/0.7kgmの向上を果たしていました。トランスミッションはiQ同様6速MTとCVTが設定され、パフォーマンスは最高速度170km/h・0-100km/h加速11.8s(MT仕様)/11.6s(CVT仕様)と発表されました。
また、CO2発生量はMT仕様が116COg/km、CVT仕様が120COg/kmで、6L級のエンジンを搭載する他のアストンマーティン車よりも遥かに低く抑えられていました。サスペンション形式はiQと同様のフロント:マクファーソンストラット式/リア:トーションビーム式で、ブレーキはiQのスポーティ・グレード「130G MT→(ゴー)」と同様のフロント:ベンチテーテッド・ディスク式/リア:ソリッド・ディスク式が採用されました。
iQとは異なる豪華な内装が特徴
また、タイヤサイズも同モデルと共通の175/60R16サイズ(前後とも)が装着されました。一方室内は、iQには設定のある2人乗り仕様の設定はなく、4人乗り仕様のみが用意されました。内装は、インパネの造形こそiQと基本的に共通ながら、シートやドア内張りをはじめインパネやホーンパッド、シフトノブにも本革素材を奢るなど、アストンマーティン車にふさわしい豪華な仕立てとなっていました。
その後2013年9月をもって、生産終了となりました。シグネットは、日本市場においても正規輸入が行われました。販売価格はMT仕様が475万円、CVT仕様が490万円で、iQのほぼ3台分に匹敵するものでした。