日産のパイクカー「フィガロ」は、1990年の東京モーターショーでプロトタイプが公開され、翌1991年2月に市販モデルが2万台限定で発売されました。同社のパイクカーとしては「Be-1」「パオ」に続く第3弾で、「日常の中の非日常」がコンセプトでした。初代「マーチ」(K10型)をベースとする点は共通ながら、ボディ形状は3ドアハッチバックだったBe-1やパオとは異なり、2ドア4シーターのクーペカブリオレでした。
トップ開閉方式はアウトビアンキ車の影響も
Be-1にも通じる曲線的なボディラインで構成されるスタイリングは、1950~1960年代の欧州車を彷彿とさせるものでした。又、ショルダーラインの上下でボディカラーの異なるツートンカラーが採用された事も手伝い、洒脱な雰囲気を醸していました。トップは手動開閉式のソフトトップで、ルーフ中央部分とリアウィンドウのみが開放され、AピラーからBピラーに掛けての骨格がそのまま残る構造でした。
そうした手法は、1950年代後半に登場したイタリア製小型車「アウトビアンキ・ビアンキーナ・トラスフォルマビル」などにも見られたものでした。ボディサイズは全長3,740mm×全幅1,630mm×全高1,365mmで、K10型マーチと比較すると全長はほぼ同等ながら、よりワイド&ローなディメンションでした。ホイールベースは同一の2,300mmで、車両重量は810kgとやや重くなっていました。
サスペンション形式は、マーチと同様のフロント:ストラット式/リア:4リンク・コイル式を踏襲する一方、リアにはスタビライザーが追加されました。エンジンは、1L直4SOHC NAのMA10S型が搭載された「Be-1」や「パオ」と異なり、「マーチターボ」に搭載されていた1L直4SOHCターボのMA10ET型(最高出力76ps/6,000rpm・最大トルク10.8kgm/4,400rpm)が採用されました。
独特なインテリアを採用
トランスミッションは3速トルコン式ATのみで、MTの設定はありませんでした。インテリアは白を基本色としてレトロ調にまとめられ、独特な書体の文字盤を採用した丸型2眼式メーターや白い3本スポークステアリングホイール、花の蕾をモチーフにしたパワーウィンドウやアンテナのスイッチなど、独特な世界観を感じされるものでした。又、シート素材に本革が奢られるなど、上質感も追求されていました。
車両価格は187万円で、販売は抽選方式により行われました。抽選は1991年8月末までに3回に分けて行われ、1992年2月に予定台数を完売した為そのまま生産終了となりました。誰にでも新車で購入出来る車種ではなかった事から、一時は人気が沸騰し、中古車市場でプレミアム価格による取引が行われました。又、稀少性のみならずデザイン面での評価も高く、1991年の通産省選定グッドデザイン賞を受賞しました。