フェラーリは2003年に、前年生産終了となった「456M」の後継モデルとなる4シーター・グランツーリスモ「612スカリエッティ」を発表しました。同社のフラッグシップとして位置付けられるモデルで、エレガントなスタイリングが備わっていた他、456Mではプラス2の域を出なかった後席スペースが大人2人の長時間移動に耐えるものとなった点が特徴でした。
レトロ&モダンなスタイリング
ボディタイプは456M同様、2ドア・フィクスドヘッド・クーペのみの設定で、デザインは引き続きピニンファリーナの手により行われました。スタイリングは、映画監督ロッセリーニが女優イングリッド・バーグマンに贈った事から通称「バーグマン・クーペ」と呼ばれた「375MM」をモチーフに、レトロとモダンの融合が試みられていました。
プラットフォームは、12気筒フェラーリとして初のアルミ製スペースフレーム構造が採用されると共に、ボディパネルにもアルミ素材が多用されました。ボディサイズは全長4,902mm×全幅1,957mm×全高1,344mmで、456Mから一回り拡大された他、ホイールベースも後席スペース拡大の為350mm長い2,950mmに設定されていました。
車両重量は、ボディサイズ拡大に伴い150kg重い1,890kgとなっていました。駆動方式は456M同様FRで、同時にトランスアクスルレイアウトも受け継がれました。前後重量配分は456Mの51:49に対し、FR車としてより理想に近い46:54を実現していました。フロントに搭載されるV12エンジンは、2シーター・スーパースポーツ「575Mマラネロ」に搭載される5.7Lユニットをリファインした物でした。
大幅なパフォーマンスアップを実現
スペックは456Mを大幅に上回る最高出力532.5HP/7,250rpm・最大トルク60kgm/5,250rpmで、トランスミッションは6速MTと6速セミATの「F1マチック」が用意されました。パフォーマンスは最高速度320km/h・0-100km/h加速4sで、456Mを最高速度で20km/h、加速タイムで1.2s凌駕するものでした。
その他、4輪ダブルウィッシュボーン式のサスペンション形式や、ラック&ピニオン式のステアリング形式は456Mと同様であった一方、ABSとスタビリティコントロールのASRを統括制御して走行安定性を向上させるCSTが新たに装備されました。インテリアは、レザーを多用すると共にアルミ製のインパネを採用したスポーティかつゴージャスなものでした。
快適装備としては、フェラーリ車として初となる左右独立式空調システムや、ポジションメモリー付のフロント・パワーシートが装備されました。そして2007年に、特別仕様車としてフェラーリ創立60周年記念モデル「セッサンタ」と、BOSE社との共同開発によるマルチメディアシステムを装備した「エンハンスト」が発売されました。
そして2011年に後継モデル「FF」が発表された事に伴い、生産を終了しました。