ホンダは、国内市場で日産とシェア第2位争いを演じる大手メーカーながら、ライバルのトヨタや日産などと比較して、変わり身が速いという特徴があります。
1960年代は高度なメカニズムで他社をリード
1960年代に初めて4輪車市場に参入した当時は、オートバイ譲りの高度なメカニズムを投入した小排気量車を次々と市場に送り込み、センセーションを巻き起こしました。中でも、高性能なスポーツカー、S600/S800や、軽自動車に一大旋風を巻き起こしたN360などは、初期におけるホンダの代表作と言えます。
1970年代は環境性能で
しかし、1970年代に入り、石油資源問題や環境問題に対する社会的関心が高まると、ホンダはこれまでの路線を180度転換します。新たに市場に投入した大衆車、シビックは、1.2Lエンジンから発生する出力が60~69馬力に抑えられ、リッター当たり出力が80馬力から100馬力に達していたこれまでのホンダ車からは想像も付かないスペックでした。
一部の熱烈なホンダファンの失望とは裏腹に、市場ではシビックは好評を持って迎えらます。更に、排気ガス規制が実施されると、ホンダは独自の排気ガス対策システムCVCCを開発してシビックに搭載し、触媒頼みだった他社に差を付けます。その一方で、当時企業体力がそれ程高くなかったホンダは、車種の集約化を推し進め、一時は屋台骨を支えていた軽自動車をあっさりと切り捨てます。こうした、変わり身が速く小回りの効く体質は、他の国内メーカーとは一線を画するものでした。
1990年にはNSXを投入。ミニバンにも注力
その後暫くは、オーソドックスなセダンやハッチバック車をメインとする商品展開を行いましたが、1990年代にバブル期に入ると、時代の空気を敏感に察知して、高級スポーツカーNSXを投入します。又、その後ミニバンブームが起きると、時流に便乗してミニバンの車種を次々と市場に投入し、ベストセラーカーを生み出していきます。
’94年にはオデッセイを発売。生産ラインの制限から背の高いミニバンが作れない状況から、オデッセイはライバルに比べて車高の低いミニバンでした。他社が商用車をベースとしてミニバンを開発する中、乗用車(アコード)をベースとして開発。これが消費者に受け、月4,000台の目標を超え、95年には12.5万台が売れる大ヒット商品となりました。’96にはステップワゴンを投入。これも大ヒットしました。
2000年代に入りNSXが生産終了になると、ホンダはミニバンを主力商品とする、かつてとは全く違う特徴を持つメーカーになっていました。現在では、時代の潮流に則り、軽自動車とコンパクトカーが販売の主力になっています。かつてのホンダは、自ら時代を切り開いていくパイオニア精神溢れるメーカーでしたが、近年は流行に便乗する傾向が強まった傾向があります。
そしてスポーツカー攻勢を再開
’90年代はオデッセイ、ステップワゴン、ストリームなどでミニバン市場を牽引してきましたが、徐々に競合他社の商品に牙城を崩され、苦戦を強いられています。中高年にはホンダと言うとF1をはじめとするレース活動やS800、ビート、インテグラtype-Rなど高性能エンジンを武器とするスポーツカーに代表されるスポーツ路線のイメージが印象強いと思います。一方で30代より若い世代はオデッセイ、ステップワゴンなどのミニバンのイメージが強いかもしれません。
その辺は当のホンダも分かっているでしょう。今の中高年が若かった頃、ホンダに抱いていたイメージを再び今の若者にも持ってもらおうと、ブランド・アイデンティティの再構築に取り組んでいるようです。
Honda CM「負けるもんか(プロダクト)篇」
2015年に入り、他社が手掛けないミッドシップ方式の軽スポーツカーS660をリリース。開発責任者には26歳の若者を据えるなど、これまでの自動車開発の常識を内部から壊す、新しい取り組みにチャレンジしています。更には画期的なメカニズムを持つ新型NSXのデビューが控えるなど、先進性を取り戻す為の努力が垣間見えます。かつてのチャレンジングなホンダが戻ってくる日を期待しています。