軽自動車は、黎明期においてはボディサイズ、排気量共に現在よりもかなり小さなものでしたが、数度に渡る規格改定の結果、現在の全長3.4m以下×全幅1.48m以下×全高2m以下、排気量660cc以下という規格に至っています。過去における規格改定の理由は、ボディに関しては居住性の改善や衝突安全性の向上が目的で、排気量の拡大はボディ拡大に伴う重量増加に対応する為でした。
800cc程度まで拡大するのが理想的だったが
しかしながら、現行規格が1998年に策定された際、衝突安全対策としてボディが一回り拡大されたにも関わらず、エンジンの排気量は据え置きのままとなりました。本来であれば、ボディ拡大による数十キロに及ぶ重量増に対応する為、エンジン排気量も800cc程度まで拡大するのが理想的でした。
しかし、当時、軽自動車をラインナップを持っていなかったトヨタと日産が、軽自動車の排気量拡大に反発し、スズキを除く軽自動車販売メーカーも、それに追従する形となりました。スズキ1社のみは、持前の反骨精神を発揮し、新規格軽自動車の排気量は770cc若しくは800ccが適切であると主張したものの、多勢に無勢で、結局排気量は660ccに据え置かれました。ここで、スズキ以外の軽自動車販売メーカーが排気量拡大に乗り気でなかったのは、意外に思われます。
その理由は、軽自動車が一人前の車格と性能を持つと、それより利幅の大きいコンパクトカークラスの販売が減少する事を恐れたのが真相のようです。そして、両者の棲み分けをはっきりさせる為に、排気量を据え置いた方がむしろ望ましいという判断が働いたものです。
その為、規格改定当初は確かに安全性は向上し、見た目も立派になったものの、動力性能は明確に低下しました。又、ボディサイズの面では、例え全幅が1.48mまで拡大されても、ヨーロッパのAセグメントコンパクトカーよりも狭く、側面衝突安全性の不足が懸念されました。
車庫証明が不要という特典を与え続ける為には
当時の運輸省の見解は、軽自動車に車庫証明が不要という特典を与え続ける為には、これ以上の全幅拡大は認められないというものでした。このように、やや不十分な衝突安全性と、不足気味の動力性という懸案事項を抱えながら、現行軽自動車規格はスタートしたのです。
しかし、現在においては、エンジンのテクロノジーの進歩に伴う実用トルクの向上や、トランスミッションの高効率化に伴い、ノンターボ車であっても過不足のない動力性能が確保されています。
又、衝突安全性に関しても、JNCAPのテストで五つ星を獲得する車種が現れるなど、ボディサイズから来るハンディを克服しつつあります。従って、現行の軽自動車規格は、取り回しの良さと必要十分な動力性能や安全性を両立した、落としどころとして悪くない規格と言う事が出来ます。