どんなクルマを見ても、ドアのヒンジあたりにタイヤの空気圧を指定して書いてある。それによれば、一般走行」と「高速走行」の二項目があって、一般走行より高速走行の場合には10~20パーセントほど高い空気圧が指定されている。
これがどれほど守られているか、守られていないか知らないが、常識としてそうしなければならないように考えられているのは事実。
なぜ高速走行でタイヤの空気圧を高める必要があるのか?
では、なぜ高速走行でタイヤの空気圧を高める必要があるのか?まず、タイヤのたわみを少なくして、タイヤそのものの伸縮を少なくする。タイヤがブヨブヨしていると走行抵抗が大きく、タイヤの伸縮運動とともに発熱する。
発熱によってタイヤのゴム特性が変わる。この熱害を少なくすることが一つ。もう一つは、高速コーナリングで空気圧が少ないと、タイヤが外側につぶれてしまう。これでは踏ん張りが効かない、という理由がある。
空気圧を上げてタイヤの変形を抑える
さらに、もう一つ、回転するタイヤの一部が路面に押し付けられて丸いものが平らになり、それでまた丸味を取り戻すのに要する時間が問題だ。空気圧が高ければ、ゴムの弾性の他に空気の圧力で元に戻ろうとするからいいが、そうでないと、復元しないうちにまた路面にたたきつけられ、本来は丸いはずのタイヤが角ばったものと同じようなことになる。この現象を専門用語でいうと「スタンディングウェーブ」(定常波)という。スタンディングウェーブ現象が発生すると、一分も経たないうちにタイヤがパンクしてしまう。
では、一般走行用の空気圧で、高速道路を100キロメートルで飛ばしたら、タイヤはバラバラになるか、というと、いまのタイヤでそんな粗末なものはない。
では、なんでそんなヤッカイな指定をしているのか、となると問題は複雑になる。クルマの設計者は、足回りに合わせたマッチングのいいタイヤを使い、そのタイヤに適する空気圧を指定する。はやくいえばサス・セッティングの手抜き分をタイヤに受け持たせる。
そこで、タイヤの空気圧を低くして乗り心地を優先させる。ところが低く抑えると高速で気が狂ったように走る人に対する保障ができない。だから空気圧を上げてタイヤに頑張らせる、という仕掛けだ。メンドウだから一般と高速の中間の「圧」にした、というユーザーがいても常識はずれにはならない。一般走行でいくぶん乗り心地を捨て、高速でベラボウなことをしない人ならそれでいい。
安全のためなら高めの空気圧がいいが、高過ぎればタイヤの磨耗がタイヤ中央部から起きる。それでも、低い空気圧でブヨブヨ走り、雨が降れば滑りやすく、タイヤ全面が減ってしまうよりはいいだろう。もっとも、空気圧が高過ぎれば、タイヤでのクッションが効かないから乗り心地は悪化し足回りを痛める。走り方さえ常識的なら、空気圧の常識はあまり必要ではない。