BMWは1957年8月、1955年にリリースしたキャビン・スクーター「イセッタ」をベースに、ボディサイズやエンジンを拡大した上級モデル「600」を発売しました。経済状態が上向いていた西ドイツ(当時)国内において、ミニマム・トランスポーターであるイセッタはすでに時代の要求にそぐわなくなっていたため、それに代わるモデルとして開発されたものでした。
乗車定員は4名に
スタイリングはイセッタ譲りの卵型ボディを受け継ぎながらも、サイズが二回りほど拡大されたことで、より乗用車的な雰囲気を持つものとなりました。また、乗車定員が2名から4名に増やされたほか、乗降用ドアはイセッタ同様のボディ前面に加え、ボディ右側面にも設けられました。ボディサイズは全長2,900mm×全幅1,400mm×全高1,375mmで、日本の軽自動車よりも全長が短く、全幅は広いディメンションでした。
イセッタとの比較では、それぞれ615mm×20mm×35mm拡大されていました。ホイールベースは1,700mmで、イセッタから200mm延長されていました。また、トレッドはフロントはイセッタより20mm広いだけの1,220mmであった一方、リアはディファレンシャルが組み込まれたことにより、それを持たないイセッタよりも640mmも広い1,160mmに設定されました。
モーターサイクル用エンジンを搭載
車両重量は550kgで、イセッタから190kg増加していました。駆動方式はイセッタ同様のRRを踏襲し、リアに搭載されるエンジンはイセッタの空冷4ストローク245cc単気筒OHV(最高出力12hp/最大トルク1.5kgm)に代わり、同車のモーターサイクル「R67」用をベースとした空冷4ストローク582cc水平対向2気筒OHV(最高出力19.5hp/最大トルク3.9kgm)が採用されました。
トランスミッションは、イセッタ同様4速MTとの組み合わせであったものの、各ギアのレシオがハイギアードされたほか、ファイナルレシオが大幅に低められていました。最高速度は105km/hで、イセッタより20km/h向上していました。サスペンション形式は、フロントはイセッタ同様のスイングアーム式ながら、スプリングがラバーからコイルに変更されました。
一方、リアはリジッド式だったイセッタと全く異なり、トレーリングアーム/コイル式による独立懸架式が採用されました。600は、イセッタでは吸収できなかった上級志向のユーザーの取り込みを目論んだものの、より本格的な設計が施されていた「フォルクスワーゲン・タイプⅠ(ビートル)」にユーザーを奪われ、販売は振るいませんでした。
そのため、発売から僅か3年後の1959年11月に生産終了となりました。実質的な後継モデルとしての役割は、その3か月前にリリースされた遥かに普遍的な大衆車「700」が担うこととなりました。