シトロエンのコンパクトカー「AX」は、旧式化が目立ってきた「LN」「ヴィザ」に代わるモデルとして1986年のパリサロンでデビューしました。「プジョー205」をベースとしながら、ボディサイズやホイールベースが短縮され一クラス下のセグメントとして設計されました。かつてのシトロエン車のような独創的なメカニズムは持たなかったものの、優れたトータルバランスが持ち味でした。
軽量かつ空力特性に優れたボディ
ボディバリエーションはまず3ドアハッチバックが登場し、翌年9月に5ドアハッチバックが追加されました。デザインは兄貴分の「BX」と異なり社内で行われたものの、直線基調のスタイリングはBXの流れを汲むもので、同時にCd値0.31の空力性能を備えていました。初期型のボディサイズは全長3,495mm×全幅1,555~1,595mm×全高1,345~1,350mmで、BXよりも二回り程コンパクトなものでした。
ホイールベースも遥かに短い2,280mmで、車両重量は640~695kgと極めて軽量に抑えられていました。サスペンションはBXに採用された高度な「ハイドロ・ニューマチック・サスペンション」ではなく、プジョー・205とほぼ同一の一般的な金属バネ式が採用されました。形式はフロントがマクファーソンストラット/コイル式で、リアがトレーリングアーム/トーションバー式でした。
新開発のエンジンを搭載
駆動方式はFFで、エンジンはAX用に新開発された直4SOHCユニットが搭載されました。発売当初用意されたのは1L(最高出力45hp)、1.1L(最高出力55hp)、1.4L(最高出力65hp)の3種類で、トランスミッションは1L/1.1Lが4速MT、1.4Lが5速MTとの組み合わせでした。追って1987年に1.4Lのハイパフォーマンス版「GT」(最高出力85hp)が、更に1988年には1.8Lディーゼル(最高出力53hp)が追加されました。
日本には1989年に1.4L 5ドアの「14TRS」と同3ドアの「GT」の導入が開始され、翌1990年にはエンジンがキャブレター仕様からフューエルインジェクション仕様に変更されました。そのスペックは共に最高出力75ps/最大トルク10.6kgmで、トランスミッションは5速MTとの組み合わせでした。装備面では、GTにはリアスポイラーやアルミホイール、タコメーターが備わりました。
そして1991年にマイナーチェンジが実施され、エクステリアの一部変更と共にインパネのデザインが一新されました。同時に1.4Lマルチポイントインジェクション仕様エンジン(最高出力100hp)を搭載する高性能版「GTi」と、1.4Lキャブレター仕様エンジンを搭載する4WDモデル「4×4」が追加され、前者は日本にも導入されました(最高出力は95psとなる)。
次いで1993年には、日本には最後まで導入されなかった1L/1.1L車も含め全車フューエルインジェクション化されました。そして1996年に実質的な後継モデルとなる「サクソ」が登場するとバリエーションが縮小され、1998年に全グレードが生産終了となりました。