フェラーリは1991年に、それまでの「テスタロッサ」に代わる新たなフラッグシップモデルとなる「512TR」をリリースしました。ボディや足回り、パワートレインなど根幹部分は基本的にテスタロッサからキャリオーバーされたものの、分割式だったフレームが一体式となり、エンジン重心高が下げられるなど、操縦安定性を改善する為のリファインが施されました。
基本デザインを受け継ぎながら空力特性を改善
ボディタイプはテスタロッサ同様フィクスドヘッド・クーペのみの設定で、デザインも同じくピニンファリーナにより手掛けられました。スタイリングはエッジの効いたシャープなフォルムやボディ側面に設けられたスリット、ルーバーの奥に備わるテールランプなど、基本的なデザインテイストがテスタロッサから受け継がれました。しかし空力特性は改善され、Cd値は0.03小さい0.33に向上しました。
ボディサイズは全長4,480mm×全幅1,975mm×全高1,135mmで、テスタロッサとの相違は僅かであり、ホイールベースも同一の2,550mmに設定されました。一方車両重量は90kg程増加し、1,595kgとなりました。テスタロッサ同様にミッドシップマウントされる4.9L 180度V12DOHCエンジンは、圧縮比が9.3:1から10.0:1まで高められた他、ボッシュ製の燃料噴射装置がKジェトロニックからモトロニックに変更されました。
パワーアップに伴い300キロオーバーの最高速度を実現
スペックは最高出力425HP/6,750rpm・最大トルク50kgm/5,500rpmで、テスタロッサの最高出力390HP/6,300rpm・最大トルク50kgm/4,500rpmから最高出力が35HPアップすると共に、より高回転型の性格になりました。組み合わせられる5速MTは、ファイナルレシオはテスタロッサと共通ながら、1~5速の各ギアレシオがハイギアード化されました。
動力性能は、最高速度がテスタロッサより40km/h程アップした314km/hとなった他、0-60mph加速も0.3s短縮され4.9sとなりました。その他、4輪ダブルウィッシュボーン式のサスペンション形式やラック&ピニオン式のステアリング形式、4輪ベンチレーテッド式ディスクブレーキなどの基本メカニズムはテスタロッサから踏襲されました。
一方、ホイール&タイヤサイズはパワーアップに対応すべく、テスタロッサのフロント:8.0J×16インチホイール+225/50VR16タイヤ/リア:10.0J×16インチホイール+255/50VR16タイヤに対し、フロント:8.0J×18インチホイール+235/40ZR18タイヤ/リア:10.5J×18インチホイール+295/35ZR18タイヤへとインチアップ及びワイド&扁平化が図られました。
生産期間は後継モデル「F512M」がデビューする1995年までの3年間で、7年間に渡り生産されたテスタロッサよりも短命に終わりました。それに比例するように総生産台数も少なく、テスタロッサの1/3にも満たない2,280台でした。