BMWは1972年、モータースポーツ部門を「BMWモータースポーツ社」として独立させ、エンジンやパーツの供給と、そのノウハウを生かしたロードカーの開発を委託する事となりました。そうした経緯において開発が手掛けられた初のコンプリートカーが「M1」で、グループ5レースでポルシェに対抗する事を目的としたホモロゲーションモデルでした。
生産はランボルギーニからバウアへ
プロジェクトは1976年に開始され、駆動方式はMR(ミッドシップエンジン・リアドライブ)が採用されたものの、同社は同方式の経験がなかった為、生産はMRスーパーカーで豊富な経験を積んでいたイタリアのランボルギーニ社に委託されました。しかし、生産が酷く滞った為1978年に契約は解消され、組み立てはBMW車のカブリオレボディの制作で実績のあったバウア社に委託されました。
こうして当初の予定通り、同年秋のパリサロンにおいて市販バージョンがお披露目されました。車体は鋼管セミスペースフレーム構造のシャシーにFRP製ボディを架装したもので、デザインを手掛けたのはイタル・デザインに在籍していたジウジアーロでした。スタイリングは、1972年に発表された試作モデル「BMW・ターボクーペ」に類似したデザインのフロント廻りが採用されました。
一方、ドアはターボクーペのようなガルウイングタイプではなく、一般的なヒンジタイプに変更されました。又、空力特性を表すCd値は0.4でした。ボディサイズは全長4,360mm×全幅1,824mm×全高1,140mm、ホイールベースはこの種のモデルとしては長い2,560mmで、車両重量は1,300kgでした。サスペンション形式は4輪ダブルウィッシュボーン式で、ブレーキは4輪ベンチレーテッドディスク式が採用されました。
BMW M1のインプレッション(Top Gear)
BMW M1のレーシングモデル走行シーン
エンジンはチューニングの異なる3種のバージョンを用意
エンジンは、スポーツクーペ「3.0CSL」に搭載された3L直6DOHCユニットをベースに、排気量を3.5Lに拡大しマルチポイントインジェクションを装備したもので、ロードバージョンの場合9.0:1の圧縮比から277hp/6,500rpmの最高出力と33.7kgm/5,000rpmの最大トルクを発生しました。トランスミッションは5速MTが組み合わせられ、最高速度262km/h・0-100km/h加速5.9sの動力性能を発揮しました。
このロードバージョンと同時に、圧縮比を11.5:1まで高め最高出力470hp/9,000rpmを発生するグループ4バージョンと、排気量を3.2Lに拡大すると共にKKK製ターボチャージャーを装備し、最高出力850hp/9,000rpmを発生するグループ5バージョンが用意されました。これらのコンペティションモデルは、競技規制改正の煽りを受け十分な活躍の場が得られないまま終わりました。
又、生産工程が複雑であった為生産ペースが月3~4台に過ぎなかった事や、ライバルと目された「ポルシェ・911」や「フェラーリ・308」の約2倍という高価な販売価格が影響し、ロードバージョンの販売も振るいませんでした。総生産台数は、レースのホモロゲーション獲得に必要な400台を僅かに超える447台でした。