かつてフランスに存在した自動車メーカー「アルピーヌ」が手掛けたスポーツモデルの中で、最も名高い車種が1963年にパリサロンでデビューを飾った2シータースポーツカー「A110」です。前身となったのは1956年に登場した「A108」で、A110はそのスタイリングのテイストを踏襲しつつ、シャシーや足回りを一新し完成度が高められました。当初は小排気量・小出力エンジンでスタートしたものの、後にパワーアップが図られました。
軽量ボディに小排気量エンジンの組み合わせ
スタイリングは、曲線を生かした優美なボディラインとバランスの取れたプロポーションを持ち、A108から更に洗練されたものになりました。ボディの素材はFRPで、ボディサイズは全長3,850mm×全幅1,460mm×全高1,130mmでA108より一回り拡大されたものの、同時代の「ポルシェ356」よりも一回り小ぶりなサイズでした。シャシーはルノー製セダン「8」の鋼管バックボーン型を流用し、ホイールベースはそれより短縮された2,130mmでした。
サスペンションも同車のものを流用し、前:ダブルウィッシュボーン式/後:セミトレーリングアーム式の形式で、駆動方式もRRを踏襲しました。搭載されたエンジンはルノー製1L水冷直4OHVで、トランスミッションは5速MTが組み合わせられました。最高出力は僅か48psに過ぎなかったものの、車両重量が565kgと非常に軽量であった為パワーウエイトレシオは12kg/psを下回り、必要十分な性能が確保されていました。
次々と性能向上版が登場
そして翌1964年に1.1L版が登場、更に1965年にはルノー系チューナー「ゴルディーニ」がチューニングを手掛けた1.1Lエンジンを搭載する「1100ゴルディーニ」が発売されました。最高出力は初期の1L版の2倍の96psで、最高速度193km/hの性能を発揮しました。次いで1966年に、同じくゴルディーニチューンの1.3Lエンジンを搭載する「1300ゴルディーニ」が登場しました。
エンジンは最高出力103ps、最大トルク11.9kgmのスペックで、車両重量は625kgと初期型より重くなったもののパワーウエイトレシオは6kg/ps余りと優秀で、最高速度198km/h、0-400m加速16.6sのパフォーマンスを発揮しました。次いで1967年、1.5Lエンジンを搭載する「1500」が追加されました。最高出力は70psと控えめで、トランスミッションも4速MTとなる大人しいモデルでした。
そして1968年、歴代A110の中でも最もポピュラーな存在となる1.6Lエンジン搭載モデル「1600S」が登場しました。最高出力129ps、最大トルク14.9kgmのスペックで、車両重量は760kgまで増加したもの、動力性能は最高速度204km/h、0-400m加速15sに向上しました。又、エクステリア面でも変更を受け、ノーズ部分に埋め込み型のドライビングランプが設置されました。
その後、外装の小変更やグレード体系の変更などが行われましたが、基本的なボディ形状に大きな変更はありませんでした。そして1971年に後継モデル「A310」がデビューしてからも、ラリー競技での活躍もあってA110は根強い人気を保ち、1977年まで生産が継続されました。フランスの古今のスポーツカーの中でもアルピーヌ・A110は代表格的な存在となっており、現在もヒストリックカーファンの間で人気車種となっています。