1959年に創立されたイタリアの自動車メーカー、デ・トマソ社が手掛けた最初の市販車が「ヴァレルンガ」でした。当時の市販車では極めて珍しかったMR方式を採用した2シーター・ライトウエイトスポーツカーで、まず1964年のトリノ自動車ショーにおいてプロトタイプが出展されました。設計を手掛けたのはカロッツェリア・フィッソーレで、後の市販モデルとは異なりオープンボディのスパイダーでした。
レーシングカーを彷彿とさせるスタイリング
同年、車体をクローズドボディの2ドアクーペに改めた量産モデルがカロッツェリア・ギアの手により製造され、市販が開始されました。スタイリングは曲線を基調とした流麗なファーストバックで、ヘッドランプには空気抵抗軽減の為にカバーが設けられるなど、レーシングカーさながらの雰囲気を醸すものでした。シャシーは、スチール製バックボーンフレームと鋼管製サブフレームにより構成されていました。
ボディサイズは全長3,870mm×全幅1,590mm×全高1,050mmで、極端に低い全高が特徴でした。同時代を代表するライトウエイトスポーツカーの1台である「ロータス・エラン」と比較すると、全長と全幅は一回り大きく、全高は10cm程低いディメンションでした。ホイールベースは2,315mmで、サスペンションはフロントがダブルウィッシュボーン/コイル式、リアがダブルトレーリングアーム/コイル式による4輪独立懸架でした。
軽量ボディにより高い動力性能を発揮
ボディの素材にFRPを使用した他、アルミニウム製部品を多用した事により車両重量は640kgと極めて軽量で、軽量ボディで知られるエランと比較しても20kg重いだけでした。ミッドシップマウントされるエンジンは、良く回る活発な性格で定評のあった英国フォード製1.5L水冷直4OHV汎用型エンジン「ケント・ユニット」で、最高出力102ps/6,000rpmのスペックでした。トランスミッションは、フォルクスワーゲン製の4速MTが組み合わせられました。
動力性能は、最高速度が100マイル(160km/h)を超える事が第一級のスポーツカーの証とされた当時において、208km/hという極めて優れたパフォーマンスを発揮しました。(同時代の国産スポーツカー「ダットサン・フェアレディ1500」は155km/h)又、加速性能の高さに見合ったストッピングパワーを発揮させるべく、ブレーキはこの時代としては贅沢な4輪ディスク式が奢られました。
ヴァレルンガは、こうしたレーシングカー並みの拘りを持った設計と高い動力性能を持っていた反面、総合的な完成度という面では未熟な部分もあり、生産台数も僅か53台に留まりました。しかし、現在ではその稀少性の高さからヒストリックカーファンの間でカルトカー的な扱いを受けるなど、マイナーな車種でありながら高い人気を誇っています。