1994年9月、フェラーリは主力モデル「348」の後継モデルとして、「F355」を発売しました。ボディのデザインを担当したのは、348同様ピニンファリーナで、全体的なフォルムは348との類似性が感じられるものでした。しかし、サイドのエアインテークやリアのルーバーは廃止され、308/328以来のプレーンな雰囲気を醸していました。
基本構造は348をほぼ踏襲
ボディサイズは、全長4,250mm×全幅1,900mm×全高1,170mmで、348より僅かに大きくなったものの、ホイールベースは2,450mmで不変でした。ボディのバリエーションは、まず固定ルーフの「ベルリネッタ」と、脱着式ルーフを備えるタルガトップの「GTS」の2種類が発売されました。そして翌1995年4月に、ソフトトップカブリオレの「スパイダー」が追加されました。
ボディ構造は、モノコックフレーム+鋼管スペースフレームのセミモノコック構造が踏襲されました。サスペンションは、348と同様の4輪ダブルウィシュボーン式ながら、新たに電子制御式可変ダンパーが採用されました。日本仕様の車両重量は、ベルリネッタが1,440kg、GTSが1,490kg、スパイダーが1,520kgでした。
新開発エンジン搭載で、パフォーマンスが向上
348同様ミッドに縦置きマウントされたエンジンは、新開発の3.5L V8DOHC5バルブの「F129B」型でした。「F355」の車名は、3.5Lの5バルブである事が由来となっています。このエンジンは、鋳造アルミ製ピストンやチタン製コンロッドが奢られ、高回転高出力型の設計により、最高出力380ps/8,200rpm、最大トルク36.7kgm/5,800rpmのアウトプットを絞り出しました。
348に搭載された「F119G」型と比較すると、大幅なパワーアップを実現していました。又、トランスミッションは、フェラーリとして初となる6速MTが採用されました。そうした改良の結果、最高速度は348よりも12km/h速い295km/hに達し、0-100km/h加速は0.7秒短縮された4.7秒という優れたパフォーマンスを発揮しました。
世界初のセミオートマチックトランスミッションを搭載
1997年には、シングルクラッチ式6速セミオートマチックトランスミッション「F1マチック」を搭載したモデルが追加されました。今日ではAMT、2ペダルMTなどと呼ばれる方式ですが、量販車で搭載したのはこのF355が世界初でした。変速操作は、ステアリングコラムに設置されたパドルで行いました。ただ、シフトダウン時のブリッパー機能はなく、ドライバーがアクセレーションで補う必要がありました。
又、F355はパフォーマンスの向上のみならず、運転席SRSエアバッグシステムの装備や、パワーステアリングの採用など、安全性や快適性にも配慮されたモデルでした。F355は、1999年10月まで販売され、「360モデナ」にバトンタッチされました。