いすゞの2ドア/4ドアセダンタイプの小型乗用車「ベレット」は、ノックダウン生産されていた「ヒルマンミンクス」の後継車種として、1963年に発売されました。翌1964年には、専用に開発された2ドアクーペボディに、レースで培った技術を投入した高性能なエンジンや足回りを採用したスポーティグレード「GT」が追加されました。
その後、GTは相次ぐ仕様変更により総合性能を向上させましたが、1969年10月、それとは一線を画する究極の高性能バージョンとして、「GT typeR」が追加されました。その2ケ月前となる8月に、鈴鹿12時間耐久レースで優勝した競技用車両「ベレットGT-X」をプロトタイプとし、公道走行に適するようエンジンをデチューンするなどの仕様変更が行われたものでした。
外観を差別化し、足回りを強化
スタイリングは、基本的にGTと同様の卵型のシルエットを持つ2ドアクーペボディ(オリジナルのノッチバッククーペ)を踏襲しつつ、ブラック塗装されたボンネットやその上に新設されたエアインテーク、分割型フロントバンパーとその中央に装備されたフォグランプなどにより、外観上の差別化が図られました。
又、全長4,005mm×全幅1,495mm×全高1,335mmのボディサイズと、2,350mmのホイールベースはGTと全く同一であったものの、トレッドのみが若干拡大されました。車両重量はGTよりも30kg増加し、970kgとなりました。サスペンションは、前ダブルウィッシュボーン式/後ダイヤゴナルスイングアクスル式による4輪独立懸架を踏襲しつつ、強化スプリングの採用により操縦安定性の向上が図られました。
いすゞ ベレットGT typeRの試乗インプレッション
117クーペのエンジンをベースに
エンジンは、高級スペシャリティクーペ「117クーペ」に搭載されていた、1.6L DOHC直4ツインキャブレター仕様のG161W型に換装されました。最高出力120ps/6,400rpm、最大トルク14.5kgm/5,000rpmのスペックは、当時の1.6Lクラスとしてはトップレベルのもので、最高出力は同排気量のSOHCエンジンG161型を搭載するGTよりも17psも高い数値でした。
トランスミッションはGTと同様の4速MTが踏襲されたものの、エンジンスペックの向上により最高速度はGTの165km/hに対し、190km/hと大幅なパフォーマンスアップを果たしました。その他、フロント/ディスク式・リア/ドラム式のブレーキ形式は同一ながらフロントブレーキをサーボ化し、リアデフにLSDを装備するなど、随所にGT以上の走行性能を実現させる為の仕様変更が行われました。
ベレットGT typeRは、動力性能の高さに加え、優れたロードホールディングやハンドリングなどを兼ね備えたトータルバランスに優れた小型スポーツクーペとして、一部のクルマ好きから絶大な支持を集めました。しかし、ベースとなるベレット自体がやや古かった事や、こだわりの造りによって高価だった事もあり、1973年3月に生産終了となるまでの期間に生産された台数は1,400台程に留まりました。
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