1990年、マクラーレングループはロードカー部門として「マクラーレン・カーズ」を設立し、翌1991年にロードゴーイング・スーパーカーの第一弾として「マクラーレン・F1」を発表、1993年から販売を開始しました。センターハンドル・センターシートのレイアウトを採用した異色のレイアウトを備えると同時に、際立った高性能を実現した点においてもエポックメイキングな存在でした。
ゴードン・マレーによる異色の設計
設計は、予てよりマクラーレングループに所属しコンペティションカーを設計していたゴードン・マレーで、カーボン系素材による軽量モノコックボディやバタフライドアを採用すると共に、1人乗りの際において理想的な左右重量配分を実現すべく、ドライバーズシートとステアリングをセンターに配置し、左右にパッセンジャー用シートを設ける特異なレイアウトを採用した事が特徴でした。
センターステアリング方式を採用し、かつ前席の乗車定員が2人以上の自動車の前例はごく僅かで、スポーツカーにおける採用例はありませんでした。ボディサイズは全長4,287mm×全幅1,820mm×全高1,140mm、で、同時代のスーパーカーの代表格であった「フェラーリ・F40」と比較すると、全高を除き一回り小さいサイズでした。
一方、ホイールベースは2,718mmとこの種の車としては異例のロングホイールベースで、F40の2,450mmよりも遥かに長いものでした。車両重量は1,140kgで、絶対的には十分軽量であったものの、F40よりは40kg重い数値でした。サスペンションは4輪ダブルウィッシュボーン式で、ブレーキは前後共にブレンボ製4ポッドキャリパー式ベンチレーテッドディスクが採用されました。
飛び抜けた動力性能
駆動方式はMRで、エンジンはレスポンスを重視した結果大排気量NAが選択され、BMW製の6.1L V12DOHCユニットが搭載されました。最高出力636ps/7,400rpm、最大トルク66.4kgm/5,600rpmという当時としては飛び抜けたスペックを持ち、最高出力の数値は3L V8ツインターボ仕様のF40を150ps以上も凌ぐものでした。トランスミッションは、6速MTが搭載されました。
動力性能も突出しており、最高速度387km/h、0-100km/h加速3.6s、0-400m加速11.1sのスペック(※carforio.com調べ)は、当時ロードカーとしては世界最速でした。そして、価格も日本円でおよそ9,700万円と飛び抜けて高価でした。高価であった事が話題となったF40でさえも、新車販売価格は4,650万円だったので(但し実勢価格は約1億円)、その倍以上の価格でした。
販売面においては、こうした価格面の問題に加え、特異なレイアウトや購入にはマクラーレンの審査や、勝手な転売を禁止するなど厳密な契約などがあったとされ、1998年に生産終了となるまでの5年間における生産台数は僅か64台に過ぎませんでした。
しかし、その販売台数の少なさも手伝って、ここ数年ではオークションで5億円や10億円で落札されています。なかでもクルマ好きで有名なローワン・アトキンソンが所有し2度の事故を経験した個体が800万ポンド(約14億円)で売却されるなど、今後もさらに高騰するものと思われます。