1948年にデビューしたポルシェ製スポーツカー「356」は、ポルシェの名が付いた初めての市販車となりました。「フォルクスワーゲン・タイプⅠ」の開発者として知られるフェルディナント・ポルシェの息子を中心とするスタッフにより開発が進められ、まず2シーターのロードスターボディを持つMR方式のプロトタイプが試作され、その後RR方式に改められ2+2のロードスター/クーペの2本立てとなった「356/2」の生産が開始されました。
アルミボディにVWエンジンの組み合わせでスタート
ボディ形状はタイプⅠの流れを汲む丸みを帯びた流麗なもので、初期型はアルミ製ボディと2分割式のフロントウィンドウが特徴でした。ボディサイズは全長3,870mm×全幅1,660mm×全高1,300mm、ホイールベースは2,000mmで、初期型の車両重量は585kg~680kgと軽量でした。サスペンションはタイプⅠと共通の4輪トレーリングアーム/トーションバー式による4輪独立懸架で、ブレーキは4輪ドラム式でした。
発売当初搭載されたエンジンは、タイプⅠと共通の1,131cc空冷フラット4 OHVをチューンナップしたもので、最高出力39.5ps/最大トルク7kgmのスペックを持ち、4速MTとの組み合わせにより最高速度140km/hの性能を発揮しました。翌1949年にレースのレギュレーション取得の関係で排気量が1,086ccに縮小され、最大トルクが若干低下し6.5kgmになりました。
量産モデルはスチールボディとなり排気量を拡大
1950年に生産拠点がオーストリアからドイツに移され、量産モデルの生産が本格的に立ち上がりました。ボディ形状が若干変更されると共に素材がスチール製となり、車両重量がクーペの場合で770kgまで増加しました。エンジンはキャブレターが変更され、最大トルクが7.1kgmに向上しました。次いで1951年に、フラット4の排気量を拡大した1.3Lエンジン搭載の「1300」及び1.5Lエンジン搭載の「1500」が追加されました。
スペックは、前者が最高出力43ps/最大トルク8.3kgmで最高速度145km/h、後者が最高出力59ps/最大トルク10.4kgmで最高速度170km/hでした。翌1952年には、フロントウィンドウが一体型になるなど内外装が変更されると同時に、最高出力70ps/最大トルク11kgm、最高速度175km/hの性能を持つ高性能版の「1500スーパー」と、カブリオレのフロントウィンドウをカットして全高を80mm下げた「スピードスター」が追加されました。
マイナーチェンジを重ね性能が向上
356A
そして1956年にマイナーチェンジを実施して車名が「356A」となり、フロントウィンドウが丸みを帯びた形状になるなど内外装の変更が行われると共に、全長が3,950mmに拡大されました。同時に、最高出力100ps/最大トルク12.1kgm、最高速度201km/hの「1500GSカレラ」、最高出力60ps/最大トルク11.2kgm、最高速度160km/hの「1600」及び最高出力75ps/最大トルク11.9kgm、最高速度175km/hの「1600スーパー」が追加されました。
356B
次いで1959年に実施された2度目のマイナーチェンジで「356B」となり、ボディが全面的にリニューアルされ形状が微妙に変化した他、各部のディテールも変更されました。同時に、ボディサイズが全長4,010mm×全幅1,670mm×全高1,314mmに拡大されました。又、最高出力90ps/最大トルク12.3kgm、最高速度180km/hの性能を持つ「1600スーパー90」が追加されました。
356C
続いて1961年、排気量を2Lに拡大し、最高出力130ps/最大トルク16.4kgm、最高速度200km/hの性能と、4輪ディスクブレーキを備える高性能モデル「カレラ2」が追加されました。そして1963年に最後のマイナーチェンジを実施し、車名が「356C」となり、全車に4輪ディスクブレーキが装備されました。その翌年の1964年に後継モデル「911」がデビューした事に伴い、翌1965年に生産を終了し、17年に及ぶキャリアに終止符を打ちました。
356は、戦後のスポーツカーを代表する1台であり、当時世界中のメーカーの指標となりました。生産終了後も、数多くのレプリカが制作されるなど高い人気を維持し、現在でも多くの熱烈なファンが存在します。