ポルシェを代表するスポーツカーである「911」は、旧式化していた「356」に替わるモデルとして1964年にデビューしました。RRの駆動方式や空冷エンジンなど基本的なレイアウトやメカニズムを踏襲しながらも、エンジンが多気筒化・大排気量化され大幅にパワーアップすると共に、実用上最低限の空間が確保されたリアシートが備わるなど実用性も向上したモデルとなりました。
現行モデルにも通じる近代的なスタイリング
スタイリングは356よりも近代的でスマートなものとなり、現在も基本的なプロポーションは発売当初の面影を残すものとなっています。初期型のボディサイズは全長4,163mm×全幅1,610mm×全高1,320mmで、356よりも長くナローなディメンションになりながら、トレッドは逆にワイド化されました。ホイールベースは100mm以上長い2,211mmとなり、車両重量は356の1.6Lモデルよりも150kg程重い1,080kgに増加しました。
356同様、後輪軸後方にオーバーハングして搭載されるエンジンは、356の「フォルクスワーゲン・タイプⅠ」用をベースとする1.6L~2Lの空冷OHVフラット4に替わり、新開発された2L 空冷SOHCフラット6ツインキャブレター仕様に置き換えられました。スペックは最高出力130ps/最大トルク17.8kgmで、トランスミッションは5速MTが組み合わせられました。
356から性能が大幅に向上
最高速度は211km/hで、同じく最高出力130psの2Lフラット4エンジンを搭載する356の最強版「カレラ2」の200km/hを凌駕しました。サスペンションは356の4輪トレーリングアーム式に対し、フロントのみマクファーソンストラット式に変更され、スプリングは356同様4輪にトーションバーが用いられました。ブレーキはフロントがディスク式、リアがドラム式でした。
そして1967年に、エンジンを圧縮比アップや軽合金鋳造ピストン採用などによりチューンナップすると共に、ベンチレーテッド式フロントディスクブレーキを採用したハイパフォーマンス版の「911S」が追加されました。エンジンのスペックは最高出力160ps/最大トルク18.2kgmまで引き上げられ、最高速度も220km/hに向上しました。又、デチャッタブルトップを採用した「タルガ」が追加されました。
次いで1968年、911のボディに356譲りのフラット4を搭載して販売されていた「912」に代わる廉価版として、フラット6を最高出力110ps/最大トルク16kgmにデチューンして搭載した「911T」が発売されました。エンジンがスペックダウンしたとはいえ、最高速度200km/hの十分な動力性能が備わっていました。又、全車に4速セミオートマチックトランスミッションの「スポルトマチック」が設定されました。
操縦安定性を改善しエンジンを拡大
そして1968年8月に大幅な仕様変更が行われ、ホイールベースが2,271mmに延長されてトリッキーな傾向があった操縦安定性が改善されました。グレード体系は「911T」「911E」「911S」となり、911Eと911Sにはツインキャブレターに替わりボッシュ製機械式燃料噴射装置が搭載されました。それに伴い性能も向上し、911Eが最高出力142ps/最大トルク17.9kgm、911Sが最高出力172ps/最大トルク18.7kgmとなりました。
翌1969年8月に排気量が2.2Lに拡大され、911Tが最高出力125ps/最大トルク17.9kgm、最高速度206km/hに、911Eが最高出力155ps/最大トルク19.5kgm、最高速度220km/hに、911Sが最高出力180ps/最大トルク20.3kgm、最高速度230km/hにとそれぞれ性能向上を果たしました。そして1971年8月には、更に排気量が2.4Lまで拡大されました。
911Tが最高出力132ps/最大トルク20.1kgmに、911Eが最高出力167ps/最大トルク21kgmに、911Sが最高出力193ps/最大トルク22.1kgmにとそれぞれ性能向上を果たしました。次いで1973年、グループ4ホモロゲーションモデルとして、排気量を2.7Lに拡大して最高出力210ps/最大トルク26kgm、最高速度240km/hまで性能アップし、全幅を1,652mmに拡大しワイドトレッド化を図った「カレラRS2.7」が限定販売されました。
更に同年8月、全車が2.7Lエンジンに置換されると共に、前後に5マイルバンパーが装着され全長が4,290mmに拡大されました。グレード体系は「911」「911S」「911カレラ」となり、スペックは911が最高出力150ps/最大トルク24kgm、最高速度210km/h、911Sが最高出力175ps/最大トルク24kgm、最高速度229km/hに向上、911カレラはカレラRS2.7と同一のスペックでした。
又、最高出力229ps/最大トルク28kgmを発生する3Lエンジンを搭載すると共にボディを900kgに軽量化し、最高速度245km/hのパフォーマンスを発揮する「カレラ3.0RS」が限定販売されました。そして1974年、モデルチェンジにより930型となったターボモデルが登場した後も、NAモデルは901型のまま1977年まで生産が継続されました。