スバルの軽乗用車「スバル・360」は、4人の大人が快適に乗車出来る居住性や、優れた走行性能や耐久性、乗り心地を兼ね備えた軽量な実用車として開発され、1958年5月に市販モデルとして結実し販売が開始されました。安価な軽自動車ながら、国産車として初のフルモノコックボディや4輪独立懸架式サスペンションを採用するなど、先進的な設計が採用された画期的なモデルでした。
軽量でパッケージングの優れたボディ
ボディタイプは2ドアセダンで、乗降性を考慮し前ヒンジ式ドアが採用されました。ボディサイズは当時の軽自動車規格に則り、全長2,995mm×全幅1,295mm×全高1,335mmというものでした。スタイリングは、「フォルクワーゲン・タイプⅠ」や「ルノー・4CV」を彷彿とさせる卵型のデザインを採用しながら、パッケージングにも最大限の配慮が行われました。
又、独立したフレームを持たない合理的な車体構造であった事や、ガラス繊維強化プラスチック製ルーフの採用などにより、車両重量は初期型で385kgと極めて軽量に仕上げられていました。サスペンションは、古典的な4輪リジッド・リーフ式を採用した国産普通乗用車も存在した中で、4輪トレーリングアーム・トーションバー式による4輪独立懸架という、当時としては先進的な形式が採用されました。
又、タイヤは当時の軽自動車の恒例であった普通車用の大径タイヤやスクーター用タイヤの流用ではなく、ブリジストンに開発を依頼した専用10インチタイヤが装着されました。このタイヤにより優れたパッケージングや操縦安定性が実現した他、前述のサスペンションとの組み合わせにより、舗装路でのロードホールディングと不整路での快適な乗り心地の両立に成功しました。
当時の軽自動車の水準を抜く動力性能
駆動方式は、当時技術的に未熟であったFF方式を避け、実績のあるRR方式が採用されました。リアに搭載されるエンジンは空冷2ストローク2気筒360ccのEK31型で、発売当初のスペックは最高出力16ps/4,500rpm・最大トルク3kgm/3,000rpmというものでした。この数値は、同時代のライバル車「スズキ・スズライト」の最高出力13psを大きく上回るものでした。
トランスミッションは、発売当初は3速フロア式コンスタントメッシュ(ノンシンクロ)MTが組み合わせられ、最高速度は当時の軽自動車の水準を大きく上回る83km/hに達しました。その他の機構面では、電装系に当時の小型車で主流だった6Vではなく12Vを採用した事や、方向指示器にセマフォー(腕木式方向指示器)ではなくターンシグナルランプを採用するなど、随所に先進的な設計が垣間見られました。
スバル360のCM
改良でエンジンや内外装を変更
その後、毎年のように数々の改良が加えられました。大きな変更としては、まず1960年後期型でエンジンがEK32型に置換され、最高出力が18psに向上すると共に、トランスミッションがシンクロメッシュ式に変更されました。次いで1963年後期型で、インパネのデザイン変更などインテリアの仕様が刷新されると共に、フロントドアウィンドウがスライド式から昇降式に変更されました。
続いて1965年前期型では、エンジンの最高出力が20psに向上した他、テールランプのデザイン変更などが行われました。そして1968年後期型で、エンジンの最高出力が25psに向上すると共に、OD付きトランスミッションが標準化されました。同時に、若者をターゲットとして最高出力を36psまで高めたスポーティグレード「ヤングSS」が追加されました。
スバル360は、前述したようなトータルバランスの高さと優れた経済性、価格の安さ(発売当時で36万5千円)により発売開始と同時にベストセラーカーとなり、長き渡り軽自動車販売台数№1の座を維持、名実共に国民車的な存在となりました。しかし、1967年に発売された安価で高性能な「ホンダ・N360」の前についに王座を譲り、次いで1969年に後継車種の「スバルR-2」が登場した事を受けて、1970年5月を持って生産終了となりました。
後継モデル:スバル R-2