現在、軽自動車は様々なカテゴリーの車種が販売されており、正に百花繚乱の感があります。しかし、その中でも各メーカーの販売の主力となっているのが、トールワゴンです。月間販売ランキング・ベストテンに数車種がランクインするなど、隆盛を極めているトールワゴンですが、その先駆けとなったのは、一般的には1993年に発売された「スズキ・ワゴンR」であると見做されています。
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本当の意味での軽トールワゴンの元祖
確かに、ワゴンRは発売されるや否や大ヒットし、程なくして他社からフォロワーが登場するなど、業界に与えた影響は絶大だったと言えます。しかし、本当の意味での軽トールワゴンの元祖は、1972年に発売された、「ホンダ・ライフステップバン(型式VA型)」であると言えます。
ライフステップバンは、当時のホンダの主力軽自動車だった「ライフ」のプラットフォームとパワートレインを流用し、トールワゴンスタイルに仕上げた商用車でした。もっとも、当時はトールワゴンという用語もミニバンという用語もなく、単なる商用バンという扱いでした。
しかし、1,620mmに達する、当時のワンボック型軽商用車並みの全高を持つディメンションながら、独立した短いボンネットを備えた2ボックスのデザインは、非常にユニークでした。
ステップバンのCM
ホンダコレクションホール収蔵車両走行ビデオ LIFE STEP VAN(1972年)
直線基調のスタイリング
又、直線基調のスタイリングは、機能美を感じさせるものでした。そして、ダッシュボードのデザインもこれ又ユニークで、机のようなフラットな形状を持ち、メーターはセンターに配置されていました。一方、機構的には冒険をせず、手堅く纏められていました。ライフと同じ水冷360cc直列2気筒シングルキャブエンジンをフロントに搭載し、前輪を駆動しました。
ライフステップバンは、コンセプトにおいて時代の一歩先を行く存在でしたが、販売は振るいませんでした。商用車としてはいささかユニークに過ぎた事に加え、他社のワンボックスタイプと比較すると荷室のスペースが狭く、長尺物の積載性の点で劣っていた事も一因でした。
結局、ホンダは1974年に軽自動車から撤退してしまった為、それに伴いライフステップバンも、人気が低迷したまま登場から僅か2年で市場から姿を消す事になります。しかし、生産終了から数年後、市場におけるワンボックス車の人気上昇を背景に、ライフステップバンは俄かに脚光が浴びる事になります。
特に、若者のカスタマイズの対象として好まれ、中古車が引く手あまたの状況となります。新車で販売されていた当時よりも遥かに高値で取引される等、かつての不人気が信じられないような人気車種へと変化したのです。
こうした経緯を持つライフステップバンは、登場する時期が少しだけ早過ぎた、隠れた名車と言える車でした。