1965年9月のフランクフルト・ショーのおいて、アウディAGの前身であるアウトウニオンAGは「DKW・F102」の後継車種となるF103系「アウディ・72PS」を発表しました。戦後では初めて「アウディ」の車名を与えらえたこのモデルは、F102と共通のプラットフォーム及びボディに、それまでの2ストローク3気筒エンジンに代わり4ストローク4気筒エンジンが搭載されました。
エンジンはベンツ製
ボディタイプは当初、F102同様2ドア/4ドアセダンがラインナップされました。エクステリア面ではヘッドランプが丸型2灯式から角型2灯式に変更されたものの、基本的なプロポーションはほぼ同一でした。ボディサイズは全長4,380mm×全幅1,626mm×全高1,451mmで、F102から全長が100mm拡大され、ホイールベースは10mm延長され2,490mmとなりました。
サスペンション形式は、フロント:ダブルウィッシュボーン/トーションバー式・リア:トレーリングアーム/トーションバー式が踏襲されました。又、エンジン縦置FF方式のレイアウトも踏襲されたものの、3気筒エンジンを前提に設計されたボンネット内に4気筒エンジンはそのままでは収まらず、40度右に傾けて搭載する手法が取られました。
当初採用されたエンジンはダイムラー・ベンツ製の1.7L OHVで、当時のガソリンエンジンとしては異例に高い11.2:1の圧縮比から最高出力72ps/最大トルク13kgmのアウトプットを発生しました。この数値は、F102の1.2Lエンジンを12ps/2.5kmg上回るものでした。トランスミッションはF102同様の4速MTで、ラック&ピニオン式のステアリング形式や、フロント:ディスク式/リア:ドラム式のブレーキ形式も受け継がれました。
高性能版や廉価版を追加
そして翌1966年に新たなラインナップとして、キャブレターの変更などによりエンジンのアウトプットを最高出力80ps/最大トルク13.5kgmまで高めて搭載する「アウディ・80」と、ボアアップにより排気量を1.8Lに拡大したエンジンを搭載し、最高出力90ps/最大トルク15kgmのスペックを持つ高性能版「アウディ・スーパー90」が追加されました。
更に同年、セダンのみだったボディバリエーションに、新たに3ドアステーションワゴンの「ヴァリアント」が加わりました。次いで1968年、1.7Lエンジンのストロークダウン版となる1.5Lエンジン(最高出力56ps/最大トルク11.5kgm)を搭載するエントリーモデル「アウディ・60」が追加になりました。
続いて翌1969年には72PS/80に代わるモデルとして、最高出力75ps/最大トルク13kgmの1.7Lエンジンを搭載する「アウディ・75」がリリースされました。そして1971年にスーパー90がカタログ落ちし、残る60/75も翌1972年に後継車種B1系「アウディ・80」にバトンタッチして生産終了となりました。