いすゞ 117クーペ (第1期 PA90/95 ’68-’72):美しいスタイリングを持つ高級スペシャリティカーの誕生
いすゞの2ドア・スペシャリティカー「117クーペ」は、1966年3月に開催されたジュネーブショーに初出展され、1968年12月に発売が開始されました。当時の国産車の水準を遥かに超える美しいスタイリングと、セミハンドメイド工法による少量生産や高価な価格設定により、カリスマ的な存在感を放ちました。
ジウジアーロデザインのボディは居住性も確保
ボディのデザインを手掛けたのは世界的デザイナーのジウジアーロで、流麗なファーストバックのプロポーションと細く繊細なピラーを備える、エレガントなスタイリングを持っていました。全体的なプロポーションは、同じくジウジアーロの手による1966年発売の「フィアット・ディーノクーペ」と共通性の感じられるものでした。
又、フル4シーターとして設計され、後席の居住性も十分確保されていました。当時の設備では量産に適さないデザイン処理であった為、多くの部位がハンドメイドで製造され、前述の通り価格の上昇に直結しました。ボディサイズは全長4,310mm×全幅1,600mm×全高1,310mm、車両重量は1,090kgで、同年生産終了となった「日産・シルビア」よりも一回り大きく重いスペックでした。
シャシーは平凡ながらエンジンは高性能
シャシーは中級セダン「フローリアン」のものを流用し、2,500mmのホイールベースも同一でした。サスペンション形式もフローリアン同様、フロントがダブルウィッシュボーン/コイル式、リアがリジッドアクスル/リーフ式で、旧式なリアサスペンションは美しいボディに対してバランスを欠くものでした。ブレーキは、前ディスク式/後ドラム式でした。
駆動方式はフローリアン同様コンベンショナルなFRで、エンジンはベレット用の1.6L直4ユニットをDOHC化したG161W型が搭載されました。ソレックスツインキャブ装備により、最高出力120ps/6,400rpm、最大トルク14.4kgm/5,000rpmというクラストップレベルのパワーを発生しました。4速MTとの組み合わせで、最高速度はカタログ値で190km/hに達しました。
内装面では、ウッド製のインパネに7連メーターが装備され、ステアリングやシフトノブにもウッドが使用されるなどゴージャスな仕様でした。そして1970年11月に、国産車初の燃料噴射装置を装備したG161WE型エンジンを搭載するグレード「EC」が追加されました。同一排気量ながら、スペックは最高出力130ps/6,600rpm、最大トルク15kgm/5,000rpmに向上しました。
同時に、廉価版として1.8L直4 SOHC SUツインキャブ仕様のG180SSF型エンジンを搭載するグレード「1800」も追加されました。スペックは最高出力115ps/5,800rpm、最大トルク15.5kgm/4,200rpmで、1.6L車よりも中低速トルク重視の扱い易い性格を備えていました。車両重量は1,055kgで、1.6L車よりも却って軽量に抑えられていました。
117クーペは、1973年3月に大規模な変更が行われた為、それ以前に製造されたタイプが「第1期」モデルとして区別されます。第1期モデルはそれ以降のモデルより相対的に高価で、販売台数も少量に留まりました。GTカーとしてのトータルバランスは、足回りが旧式であった為ハイレベルとは言えなかったものの、破綻のない操縦安定性は確保されていました。
いすゞ 117クーペ(初期)の商品概要ビデオ
いすゞ 117クーペ(初期)の試乗インプレッション
いすゞ 117クーペ (第2期 PA95 ’73-’76):生産工程の変更に伴いコストダウンと量産化に成功
いすゞの2ドア・スペシャリティカー「117クーペ」は、1973年3月に生産工程の変更や内外装のリファインを行い、第2期と呼ばれるモデルに変わりました。オートメーション工程の範囲拡大により大量生産が可能となり、価格が引き下げられた他、エクステリアデザインやインテリアの素材、エンジンなど様々な箇所に仕様変更が行われました。
ディテール変更で外観をリフレッシュ
作業工程変更に伴いボディパネルが変更されたものの、基本的なスタイリングは第1期モデルから目立った変化はありませんでした。しかし、フロントグリルのデザイン変更やバンパーの大型化、フロントウインカーの位置とデザインの変更、リアコンビネーションランプの大型化、フェンダーミラーのデザイン変更など、ディテール面では多くの相違がありました。
ボディサイズは全長4,310mm×全幅1,600mm×全高1,320mmで、全高が10mm高くなった他、車両重量は1,045kg~1,085kgとなり、僅かながら軽量化されました。フローリアンと共有されるシャシーや、前ダブルウィッシュボーン/コイル式・後リジッドアクスル/リーフ式のサスペンションに変更はなく、2,500mmのホイールベースも踏襲されました。
エンジンを1.8Lに一本化し、内装をダウングレード
エンジンは全車1.8LのG180型となり、4種類設定されたグレードにそれぞれ異なる仕様のユニットが搭載されました。上級グレード「XE」と「XG」には新開発のDOHC型が搭載され、「XE」が電子燃料噴射仕様で最高出力140ps/6,400rpm、最大トルク17kgm/5,000rpm、「XG」はSUツインキャブ仕様で最高出力125ps/6,400rpm、最大トルク16.2kgm/5,000rpmでした。
又、廉価グレード「XC」と「XT」には第1期モデルの途中から追加されたSOHC型が搭載され、「XC」が SUツインキャブ仕様で最高出力115ps/5,800rpm、最大トルク15.5kgm/4,200rpm、「XT」はシングルキャブ仕様で最高出力100ps/5,400rpm、最大トルク14.6kgm/3,000rpmでした。トランスミッションは、第1期モデル同様全車に4速MTが搭載されました。
内装面では、「XE」を除きインパネの素材がウッド製から金属製に変更され、シートがビニールレザーとなった他、ステアリングやシフトノブもウッド製から樹脂製に変更されるなど、様々な部位にコストダウンが図られました。そして翌1974年に、「XG」以外のグレードに3速トルコン式AT仕様が追加されました。
排ガス規制に対応
次いで1975年10月、昭和50年排出ガス規制に適合させる為に、触媒やEGRが追加されました。又、SOHCツインキャブ仕様エンジンが電子燃料噴射仕様に変更されると共に、DOHCツインキャブ仕様は規制をクリアする事が困難であった為廃止され、同エンジンを搭載するグレード「XG」はカタログ落ちしました。
スペックは、DOHC電子燃料噴射仕様の「XE」が最高出力130ps/6,400rpm、最大トルク16.5kgm/5,000rpm、SOHC電子燃料噴射仕様の「XC」と新グレード「XC-J」が最高出力115ps/5,800rpm、最大トルク16kgm/3,800rpm、SOHCシングルキャブ仕様の「XT」が最高出力105ps/5,400rpm、最大トルク15kgm/3,800rpmとなりました。又、車両重量が若干増加し、1,050kg~1,110kgとなりました。
翌1976年5月には、昭和51年排出ガス規制に適合させる為、再度エンジンの仕様変更が行われました。エンジンのスペックに変更はなく、MTが5速化された事が前年モデルとの主だった相違点でした。次いで同年10月、第2期モデルとして最後の一部改良が行われ、内外装や装備の一部変更が行われました。
117クーペの第2期モデルは、生産体制の改善や価格ダウンに伴い、第1期モデル時代よりも販売台数が上向きました。しかし、他社のスペシャリティカーと比較して高価である事や、絶対的な販売台数が少ない事に変わりはなく、ライバル達とは一線を画する孤高の存在感を保ちました。
いすゞ 117クーペ (第3期 PA95/96 ’77-’81):フロントマスクを刷新し、バリエーションを拡大
いすゞの2ドア・スペシャリティカー「117クーペ」は、1977年12月にマイナーチェンジを実施し、第3期と呼ばれるモデルに更新されました。基本的なメカニズムは不変ながら、フロントマスクのイメージを大幅に刷新すると共に、快適装備の充実が図られた事が特徴でした。又、後に2L車やディーゼル車を追加するなど、バリエーション拡充が図られました。
フロント廻りがモダンなデザインに
スタイリングは、ジウジアーロに手によるボディラインに変更はなかったものの、主にフロント廻りのデザインがリファインされました。ヘッドランプが角型4灯式に変更された他、バンパーにラバー製プロテクターが備わると共にウインカー埋め込み型となり、バンパー下部にリップスポイラーが装備されるなどのリファインにより、現代的な雰囲気に変貌しました。
ボディサイズは全長4,320mm×全幅1,600mm×全高1,325mmで、全長が10mm、全高が5mm拡大された他、車両重量もやや増加し、1,070kg~1,145kgとなりました。シャシーや前ダブルウィッシュボーン/コイル式・後リジッドアクスル/リーフ式のサスペンション形式、2,500mmのホイールベースに変更はありませんでした。
グレード体系を変更
グレード体系は若干変更され、「XG」が復活すると共に新グレード「XT-L」が追加になり、「XE」「XG」「XC-J」「XC」「XT-L」「XT」の全6グレードとなりました。エンジンは第2期モデル同様のG180型を踏襲しつつ、改良によりドライバビリティーの向上が図られました。トランスミッションは第2期モデル同様、5速MTと3速トルコン式ATが設定されました。
エンジンのスペックは、「XE」と「XG」がDOHC電子燃料噴射仕様で最高出力130ps/6,400rpm、最大トルク16.5kgm/5,000rpm、「XC」と「XC-J」がSOHC電子燃料噴射仕様で最高出力115ps/5,800rpm、最大トルク16kgm/3,800rpm、「XT-L」と「XT」がSOHCシングルキャブ仕様で最高出力105ps/5,400rpm、最大トルク15kgm/3,800rpmでした。
インテリア面では、樹脂系素材の多用によりコストダウンが図られた一方で、スイッチ類の操作性改善やエアコンの改良、リクライニングシートの採用など、快適性の向上が図られました。又、新たにパワーステアリングが採用された事も特徴でした。そして翌1978年12月、昭和53年排出ガス規制に適合させる為の改良が行われると共に、2L車が追加されました。
2L車と2.2Lディーゼル車を追加
搭載されたのはG180型を拡大したG200型で、スペックはDOHC電子燃料噴射仕様が最高出力135ps/6,200rpm、最大トルク17kgm/5,000rpm、SOHC電子燃料噴射仕様が最高出力120ps/5,800rpm、最大トルク16.5kgm/4,000rpm、SOHCシングルキャブ仕様が最高出力115ps/5,600rpm、最大トルク16kgm/3,800rpmで、それぞれ同仕様の1.8L車よりも優れた数値でした。
G180型エンジンに関しては、従来形に対しスペックの変更はありませんでした。又、「XC」以上のグレードのリアブレーキがディスク式に変更されました。次いで翌1979年12月に、一部改良により装備の充実が図られると共に、ジウジアーロ自らがエクステリアをリデザインした新グレード「giugiaro」が追加されました。
同時に、2.2L直4のC223型ディーゼルエンジンを搭載するグレード「XD」及び「XD-L」が追加されました。最高出力73ps/4,300rpm、最大トルク14.2kgm/2,400rpmのスペックで、車両重量はガソリンモデルよりも重い1,165kg~1,190kgでした。117クーペの第3期モデルは、大きな販売拡大には繋がらないまま1981年に生産終了となり、13年の歴史に幕を下ろしました。