ホンダ NSXは、バブル絶頂期だった1990年9月に、国内トップクラスの性能を目指したスポーツカーとして発売されました。その開発にあたっては、フェラーリのデザインや性能が強く意識され、それを超える事が目標とされました。最大の特徴は、軽量化の為ボディの素材をオールアルミ製とした事で、世界でも前例がない画期的なものでした。
フェラーリを意識した設計ながら、独自の個性も
スタイリングは、前述のようにフェラーリの影響が色濃いもので、フェラーリのコピーと揶揄される事もありました。しかし、フェラーリと比較してテールデッキの長いシルエットや、視界の確保を意図した大きなグラスエリアなど、NSXならではの個性も備わっていました。ボディ・サイズは、全長4,430mm×全幅1,810mm×全高1,170mmで、同世代となるフェラーリ348と比較すると、全長が長く全幅が狭いディメンションでした。
車両重量は1,350kg~1,390kgで、ボディの部位によりスチール・アルミ・FRPを使い分けていたフェラーリ348よりもかなり軽量であり、オールアルミボディの効果は明らかでした。このボディにミッドシップマウントされたエンジンは、レジェンド用の2.7L V6をベースに、排気量の拡大や、ホンダ独自の新機構であるVTEC搭載などで出力向上を図った3L V6のC30A型でした。
AT仕様の設定や安全装備など、誰もが運転出来る事を意識
トランスミッションは、5速MTの他に4速トルコンATも用意され、幅広いユーザー層をターゲットとしていました。エンジンのパフォーマンスは、MT仕様の最高出力は当時の規制値一杯となる280ps/7,300rpmで、AT仕様はトランスミッションとの最適化が図られ、265ps/6,800rpmと若干デチューンされていました。最大トルクは、MT、AT共に30kgm/5,400rpmでした。
サスペンションは、4輪ダブルウィッシュボーン式で、ブレーキはそのパフォーマンスに相応しい、4輪ベンチレーテッドディスクが奢られていました。又、ABSやSRSエアバッグシステム、トラクションコントロールなど、当時としては先進的な安全装備を備え、誰にでも運転出来るスーパーカーという性格を明確にしていました。
派生モデル追加、マイナーチェンジを経て終焉へ
そして、1992年11月には、3年間の期間限定販売モデルとして、更なるハイパフォーマンス化を図った「NSXタイプR」が追加されます。エンジンのスペックは従来モデルと同一であったものの、徹底的な軽量化により1,230kgという車両重量を実現していました。結果としてパワーウエイトレシオが改善され、走行性能の向上に繋がりました。
その後、タイプRが生産終了となった後も、NSXは走行性能や快適性を向上させるべく、様々な改良や装備の追加が行われ、熟成が進みました。そして、1995年3月に派生モデルとして、タルガトップボディと着脱式ルーフを備える「NSXタイプT」が追加されました。
次いで1997年2月、最初のマイナーチェンジが実施され、MT仕様のエンジンが3.2LにボアアップされC32B型となると共に、トランスミッションが6速化されます。3.2Lエンジンの最高出力は、280馬力規制に阻まれ280ps/7,300rpmと据え置かれたものの、最大トルクは31.0kgm/5,300rpmと若干の向上を果たしました。
そして、2001年12月のマイナーチェンジの際には、リトラクタブルヘッドランプを廃止し固定式プロジェクターランプとなった事で、外観のイメージが大きく変わりました。又、2002年5月には、7年ぶりに「タイプR」が復活しました。初代タイプRと比較すると、装備が充実した事もあり若干重くなったものの、1,270kgの車両重量は十分に軽量であり、NSXシリーズの集大成とも言えるモデルでした。
それから4年後の2005年12月、翌年に控えた欧米の環境規制に対応する事が困難であり、国内での販売も低迷していた為、15年に渡る生産にピリオドを打ちました。国内における販売実績は、発売当初は好調であったものの、バブル崩壊以降は高価だった事もあり低迷しました。しかし、現在でも熱烈なファンが存在する為、中古車の人気は高く、特に程度の良い高年式の個体は高値で取引されています。