ポルシェとして初めてスーパーカーのカテゴリーに属するモデルとなった「959」は、グループBレース用のホモロゲーションモデルとして開発され、1986年からリリースが開始されました。ベースモデルとなった「911ターボ」を遥かに上回る高性能と高度なメカニズムを持つ革新的なモデルであった他、イタリア製のスーパーカーと異なり十分な実用性が確保された点も特徴でした。
ボディは911とは別設計
ボディ形状は2ドアクローズドクーペで、911に類似したプロポーションを持つものの、共用するパネルはない完全なるオリジナル設計で、Cd値も911の0.39に対し0.31に向上していました。又、ボディシェルの素材にエポキシ樹脂が用いられた他、アルミニウム合金製のフロントフードやドア、ポリウレタン製のバンパー、マグネシウム製ホイールなど、軽量化の為に高価な部材が惜しみなく使用されていました。
一方、911と同様に運転席・助手席の後部にミニマムなスペースながら後席を備えるなど、日常ユースが可能な実用性も兼ね備えていました。ボディサイズは全長4,260mm×全幅1,840mm×全高1,280mmで、911よりも全長が僅かに短く、かつワイド&ローなディメンションでした。ホイールベースは911より若干長い2,300mmで、車両重量はメカニズムの相違の為100kg以上重い1,450kgでした。
ポルシェ 959のドライビングインプレッション
フルタイム4WDとツインターボエンジンの組み合わせ
駆動方式はポルシェ初となるフルタイム4WD方式で、当時としては高度なモード切替付の電子制御式可変トルクスプリット型が採用されました。エンジンは、コンペティションカーの「962C」に搭載されていたシリンダーヘッドのみ水冷式の2848cc水平対向6気筒DOHCツインターボユニットをベースに、ロードカーに適するようデチューンを施したもので、911と同様リアに搭載されました。
スペックは最高出力450ps/6,500rpm、最大トルク51kgm/5,000rpmで、3.3L SOHCターボエンジンを搭載する「911ターボ」を出力で120ps、トルクで3.4kgm凌駕するものでした。ポルシェの市販車として初となる6速MTとの組み合わせにより、0-100km/h加速タイム3.7s、最高速度300km/hの性能を発揮しました。加速・最高速度共に911ターボを遥かに凌ぎ、「フェラーリ・F40」と並び当時最速のロードカーの1台でした。
サスペンション形式は4輪ダブルウィッシュボーン/コイル式で、前:ストラット/トーションバー式・後トレーリングアーム/トーションバー式だった911とは全く異なる他、減衰力可変式の車高調整型ダンパーが採用されました。ブレーキは4輪ベンチレーテッドディスク式で、タイヤはフロントが235/VR40、リアが255/40VR17でした。一方インテリアは、インパネのデザインなどは911ターボと基本的に同一で、非日常的なムードは希薄でした。
959の生産台数は、当初の予定ではホモロゲーション獲得に必要な200台であったものの、予想を遥かに超えるオーダーがあった為増産され、1989年までの3年間に最終的に283台が生産されました。959に採用された4WD方式や水冷化されたエンジン、コイルスプリング式サスペンションなどのメカニズムは、後の911に導入されるなど後継モデルの開発・改良に大きな影響を与えました。