イギリスの自働車メーカー、ロールス・ロイス社の設立に関わったひとりであるフレデリック・ヘンリー・ロイスは、1904年4月に自身の設計による初の4輪乗用車「ロイス・10HP」を完成させました。開発の由来は、自身が購入したフランス製の市販乗用車「ドゴルビル・12HP」の機械的完成度に低さに不満を頂いたことにありました。
2人乗りオープンボディを採用
ボディタイプは黎明期の自動車によくみられたように、固定式のドアや屋根、ウィンドウなどを持たないオープンボディ「フェートン」が主流となるほか、2人乗り仕様と4人乗り仕様が製造されました。加えて独立した前後のサイクルフェンダーや大径のスポークホイール、ボディ本体から独立して設けられたヘッドランプなど、当時として一般的な形態を備えていました。
初期型のボディ・ディメンションは全長3,175mm×全幅1,400mm、ホイールベース1,905mmで、トレッドは前後とも1,219mmでした。駆動方式は、エンジンをフロントに搭載しドライブシャフトを介して後輪を駆動するFRが採用されました。パワートレインは総排気量1,810ccの水冷直列2気筒4バルブ(1気筒あたり2バルブ)のガソリンエンジンで、最高出力は文字通り10hpでした。
1.8L直2ガソリンエンジンを搭載
機構面では、吸気側バルブがオーバーヘッド方式、排気側バルブがサイド方式の「oise」方式が採用されたほか、クランクシャフトは当初2ベアリング式となっていました(のちに3ベアリング式に改良)。また、点火方式は高圧コイルとバッテリーによる信頼性の高い方式が採用され、キャブレターは近年の車と共通のスプレー式シングルキャブレターが装着されました。
組み合わせられるトランスミッションには、コーンクラッチを用いたペダル操作式のMT(前進3速/後退1速)が採用されました。また、サスペンション形式は前後ともリジッド・リーフ式で、ブレーキは当時の自動車の慣例として後輪のみにドラムブレーキが備わっていました。
ロイス・10HPは当時の自働車としては優れた性能と快適性を備えており、同年5月の試乗でそのことに感銘を受けたチャールズ・ロールズが販売権を獲得しました。その後、同年中に10HPをベースに3気筒化した「15HP」や4気筒化した「20HP」、さらに6気筒化した「30HP」も製造されたものの、10HPの生産も継続して行われました。
改良により排気量を拡大
そして1906年にロイスおよびロールズなどによりロールス・ロイス社が設立されると、10HPに改良が施されました。ホイールベースが2,468mmまで延長されると同時に、ボア・アップにより排気量が1,995ccとなりました。しかし、同年に新型車「40/50HP(シルヴァーゴースト)」が発表されたことにともない、10HPの生産はその年に打ち切られました。総生産台数は16台でした。