のちにイギリスの高級車メーカー、ロールス・ロイス社の設立に関わることとなるフレデリック・ヘンリー・ロイスは、1905年にそれまでの「10HP」などとは基本設計の異なる新型乗用車「V8レガリミット」を完成させました。当時、ガソリンエンジン車と覇権を争っていた電気自動車に対抗するため、騒音・振動特性に優れたV8エンジンが搭載されました。
性能よりも低騒音・低振動を重視
1号車のボディタイプは、リアシートのみにドアと折り畳み式の幌が備わる2ドア・4シーター仕様のランドウレットで、ホイールベースは2,286mmと短く設定されていました。トレッドは、前後ともに1,321mmでした。エンジン・レイアウトは、総排気量3,535ccの水冷V型8気筒16バルブ(1気筒あたり2バルブ)ユニットを運転席下部に搭載するユニークな設計となっていました。
また、このエンジンは1気筒あたりの排気量が10HP/15HP/20HP/30HPの半分以下に抑えられていたほか、エンジンの全高を下げるため、それまでのモデルに採用されていた吸気側バルブがオーバーヘッド方式、排気側バルブがサイド方式の「oise」方式に代わり、吸排気ともにサイドバルブ方式が採用されました。また、潤滑方式は同社初の全圧送式が採用されました。
性能よりも騒音・振動の低さを主眼に開発されたこともあり、最高出力の数値は発表されなかったものの、その発生回転数は1,000rpmと極めて低いものでした。最高速度は理論的には約42km/hまで出すことが可能であったものの、当時の市街地の制限速度であった32km/hを超えないようにギアレシオの設定が行われていました。
生産台数はわずか4台
その後追加生産された2号車は、トラックボディが架装されたとも伝えられるものの、資料が残っていないため詳細は不明となっています。次いで製造された3号車には、再びランドウレット・ボディが架装されました。続いて製造された4号車は、2シーター・オープンボディのフェートン仕様となっていました。
ホイールベースが2,692mmへと大幅に延長されたほか、エンジンの搭載場所も一般的なフロントに変更されるなど、1号車/3号車とは全く異なる外観・構成を持っていました。そのエクステリア・デザインは、エンジンがコンパクトであったため極めて低いボンネットフードを持つのが特徴でした。
V8レガリミットは当初量販モデルとして計画されたものの、30HPなどの後継モデルとして開発中であった直6エンジン搭載の「40/50HP」でも十分なスムーズネスや静粛性が確保できることが判明したため、4号車をもって生産は打ち切られました。