1906年に正式に創立されたイギリスの高級車メーカー、ロールス・ロイスは、1938年に「25/30HP」の後継モデルとなる新型乗用車「レイス」をリリースしました。基本設計を1929年に登場した「20/25HP」までさかのぼり、保守的な設計であった25/30HPから全面的な改良が施されていました。しかし、第二次世界大戦の勃発により発売からわずか1年で生産中止に追い込まれました。
前輪独立懸架を採用
シャシーはそれまでから全面的に刷新され、プレステージモデル「ファントムⅢ」の設計を踏襲したものとなりました。構造面では、それまでのリベット構造から溶接構造に変更されたことが特徴でした。一方、ボディのコーチワークは従来同様さまざまなコーチビルダーにより手掛けられ、ボディタイプは4ドアセダンや2ドアクーペなどが製造されました。
それらは、ロールス・ロイス独自の意匠が備わるフロントグリルを継承していました。セダンのボディ・ディメンションは全長5,232mm×全幅1,880mm、ホイールベース3,454mmで、25/30HPからホイールベースの延長が図られていました。一方で、ファントムⅢに対しては一回り小振りにまとめられていました。トレッドは前後とも1,511mmで、最低地上高は203mmでした。
また、2トンをわずかに下回る車両重量は、ファントムⅢよりも700kgほど軽量に抑えらえていました。サスペンション型式は、従来の4輪リジッド・アクスル/リーフ式に対し、フロントがファントムⅢと同様のダブルウィッシュボーン/コイル独立懸架式に変更され、乗り心地と操縦安定性の向上が実現しました。
エンジンはキャリオーバー
駆動方式は従来同様のコンベンショナルなFRが踏襲され、エンジンも4,257cc水冷直列6気筒OHV12バルブ仕様がキャリオーバーされました。キャブレターは25/30HPで初採用されたストロンバーグ・ダウンチューブ型から、再び自社製に戻されました。最高出力に関しては、ピークパワーの表記は意味をなさないとの同社の方針が守られ、引き続き「十分」との表記しか行われませんでした。
このエンジンに組み合わせられるトランスミッションは、従来同様3/4速にシンクロメッシュが備わる4速MTでした。一方で、引き続き運転席右側に設けられたチェジレバーは、位置が手元に引き寄せられ乗降性の改善が実現しました。ブレーキは従来同様メカニカルサーボ付きの4輪ドラム式で、ホイール&タイヤは前後とも4.00-17ワイヤーホイールと6.50×17タイヤの組み合わせが採用されました。
そして翌1939年、前述の理由により生産が中止されました。総生産台数は、492台でした。