フィアットは1985年に、傘下に収めていたアウトビアンキ・ブランドのコンパクトカー「A112」に代わるモデルとなる「Y10」を発売しました。イタリア本国・フランス・日本では従来通りアウトビアンキ・ブランドでリリースされた一方、それ以外の地域ではランチアのブランドが使用されました。質素なA112に対し、Y10は内装や装備の充実を図るなど高級志向を強めていました。
A112からリアサスペンションを変更
ボディタイプは3ドアハッチバックのみが用意され、スタイリングは直線基調のプレーンなイメージで纏められていました。ボディサイズは全長3,392mm×全幅1,502mm×全高1,420mmのコンパクトなAセグメントながら、A112よりは一回り拡大されていました。又、ホイールベースは100mm以上長い2,159mmとなり、車両重量も増加し初期型ベーシックグレードで760kgとなりました。
サスペンション形式は、フロントはA112と同様のマクファーソンストラット式で、リアはそれまでの横置きリーフ独立懸架からオメガアーム式コイル・リジッドに変更されました。駆動方式は当初FFのみの設定で、エンジン及びグレードは1L直4SOHC「ファイア・エンジン」(最高出力46ps)搭載の「ファイア」、1.05L直4SOHC NA(最高出力56ps)搭載の「ツーリング」、同ターボ(最高出力86ps)搭載の「ターボ」が設定されました。
トランスミッションは、全車5速MTとの組み合わせでした。そして翌1986年に、「ファイア」の上級グレードとなる「ファイアLX」と、ファイア・エンジンを最高出力50psまで高めて搭載するパートタイム4WDモデル「4WD」が追加されました。次いで1987年には、ファイア・エンジンを搭載するアパレルブランドの限定車「マルティーニ」及び「ミッソーニ」が設定されました。
M/Cでエンジンを一新
次いで1989年に実施されたマイナーチェンジで、エンジン及びグレード体系が一新されました。エンジンは、排気量が1.1Lに拡大されると共に電子燃料噴射装置が備わる新世代ファイア・エンジン(最高出力50ps)と、従来のターボに取って代わる1.3L直4SOHC NA(最高出力78ps)の2種類となり、グレードは1.1L FFの「ファイアLX i.e」、同4WDの「4WD i.e」、1.3L FFの「GT i.e」の3タイプが用意されました。
同時に、「ファイアLX i.e」にスバル製CVTを搭載する「セレクトロニック」が設定されました。続いて1992年に2度目のマイナーチェンジが実施され、フェイスリフトや内装の変更が行われました。そして1994年に、実質的な後継モデルとなる「ランチア・イプシロン」にバトンタッチして生産終了となりました。
日本市場には、まずフィアット正規代理店だったジャクスにより「ファイア」「ファイアLX」「ツーリング」「ターボ」「4WD」などが導入され、1989年に輸入元がオートザムに代わってからはマイナーチェンジ版の「GT i.e」が導入されました。