ダイムラー・ベンツは1952年、同社として戦後初となるコンペティションモデル「メルセデス・ベンツ300SL」を完成させ、早速レースに投入し華々しい戦歴を残しました。そして市販化の要望に応える形で、様々なリファインを施した市販バージョンが1954年のニューヨーク・ショーに初出展されました。当初はコンペティション仕様と同様ガルウイングドアが備わるクーペボディであったものの、後にオープンボディに切り替えられました。
ボディは一部を除きスチール製に
強固なマルチチューブラーフレームに架装される2人乗り仕様の2ドアボディは、コンペティション仕様のオールアルミ製に対し、量産化に配慮しドアやボンネット、トランクリッドを除きスチール製に変更されました。又、スタイリング面ではフロント廻りの意匠が一新されると共に、キャビンスペースの拡大が図られました。
その他、前後にメッキバンパーが装着され、フロントフェンダー後部にエアアウトレットが設けられるなど、様々な変更が行われました。空力特性は秀逸で、Cd値は0.38を実現しました。ボディサイズは全長4,520mm×全幅1,790mm×全高1,300mmで、コンペティション仕様から全長が300mm、全高が35mm拡大されました。一方、ホイールベースは不変の2,400mmでした。
車両重量は、前述のボディ素材変更やサイズの拡大などにより、コンペティション仕様の870kgから1,295kgへと大幅に増加しました。サスペンション形式はフロント:ダブルウィッシュボーン式/リア:スウィングアクスル式を踏襲、ブレーキは4輪ドラム式を踏襲しながら、新たにサーボアシストが装備されました。
駆動方式はコンペティション仕様と同様FRで、エンジンも同様にプレミアムセダン「300S」用の3L直6SOHCをベースに圧縮比を上げ、ソレックスキャブレターに代わりボッシュ製機械式燃料噴射装置を装着したM198型が搭載されました。スペックは最高出力215ps/最大トルク28kgmで、4速MTを介しての最高速度は235km/hでした。
オープン版はガルウイングドアを廃止
ファイナルギアはオプションでレシオの異なる4種類が用意され、最もハイギアードなギアを選択した場合最高速度は260km/hに達しました。又、デファレンシャルにはZF製のリミテッドスリップデフが組み込まれました。そして1975年5月、生産台数1,400台をもってクーペの生産は終了となり、代わってソフトトップコンバーチブルのロードスターが登場しました。
外観面では、特徴的なガルウイングドアが一般的な横開き式ドアに変更されると共に、ヘッドランプの形状が変更されました。エンジンは同じM198型ながら、圧縮比アップにより最高出力が225psに高められました。更に、トリッキーな操縦安定性を改善する為、リアサスペンションに大幅なリファインが施されました。
その後、翌1958年9月にアルミ製ハードトップがオプション設定され、1961年3月にはブレーキが4輪ディスク式にアップグレードされました。そして1963年2月、生産台数1,858台をもって生産終了となりました。