ポルシェのGTスポーツ「928」は、1977年に主力車種である「911」の上級モデルとして発売されました。当時、911の空冷エンジンやRR方式というレイアウトは、個性的であると同時に旧態化しているとも見做された為、928では先行して発売されていた「924」と同様、水冷エンジンをフロントに置くFR方式が採用されました。
ボディ形状は、ロングノーズとファーストバックのプロポーションを持つ2/2のクーペで、丁度924を一回り大きくしたような雰囲気を持っていました。ヘッドランプは、固定式の911ともリトラクタブル式の924とも異なるポップアップ式が採用され、928独自の個性となりました。この方式は、それ以前にも「ランボルギーニ・ミウラ」などの採用例はありましたが、比較的珍しいものでした。
大柄なボディと大排気量エンジンの組み合わせ
ボディサイズは、全長4,447mm×全幅1,836mm×全高1,313mmで、911と比較すると全高が僅かに低い事を除き二回り程大きく、2,500mmのホイールベースは20cm以上長いものでした。又、車両重量は1,450kgで、911よりも300kg以上重くなっていました。こうしたサイズアップは、グランツーリスモ的な路線を狙った設計思想であった為、必然的と言えるものでした。
エンジンは、4.5L水冷V8 DOHC NAで、最高出力240ps/5,250rpm、最大トルク37kgm/3,600rpmのスペックでした。トランスミッションは5速MTと3速トルコンATが用意され、924と同様に後輪軸上に配置するトランスアクスルレイアウトを採用し、50:50に近い理想的な前後重量配分を持っていました。動力性能は、MT仕様で最高速度229km/h、0-400m加速15.7sのパフォーマンスを持ち、十分に高性能スポーツカーを名乗れる水準にありました。
排気量アップでパフォーマンスが向上
1980年に、ボアアップにより排気量を4.7Lに拡大すると共にヘッドを4バルブ化した、ハイパフォーマンス版の「928S」が発売されました。最高出力299ps/5,900rpm、最大トルク38.8kgm/4,500rpmと大幅なパワーアップを果たし、最高速度245km/h、0-400m加速14.3sまで性能が向上しました。又、フロントスポイラーの新設と30mmのローダウン化が行われました。
1985年には、排気量を5Lまで拡大した「928S2」が発売されました。最高出力310ps/5,900rpm、最大トルク40.8kgm/4,500rpmまで向上すると共に、ATモデルが4速化されました。ATモデルの最高速度は255km/hでした。1986年には、更に高いパフォーマンスを備えた「928S4」が発売されました。最高出力320ps/6,000rpm、最大トルク43.3kgm/3,000rpmのスペックで、MT仕様で最高速度274km/h、0-400m加速13.8sの性能を備えていました。
その後、1990年型モデルでは、最高出力330ps/6,200rpm、最大トルク43.8kgm/4,100rpmとなり、5速MTのみとなりました。そして、1992年に最終型となる「928GTS」が発売されました。排気量が5.4Lまで拡大され、最高出力350ps/5,700rpm、最大トルク51kgm/4,250rpmまで引き上げられると共に、再び4速AT仕様が復活しました。しかし、車両重量が1,600kgまで増加した為、最高速度270km/h、0-400m加速14.1sと、パフォーマンスは若干低下しました。
928は、911程の成功作とはならなかったものの、それとは性格が異なっていた為棲み分けは上手く行き、結果的に販売期間18年に及ぶロングセラーとなりました。しかし、性格的にピュアスポーツカーとは言い難かった為、現在はポルシェファンの間では異端児的な扱いを受けており、中古車市場における人気は決して高くないのが現状です。