「トラクシオン・アヴァン」や「2CV」、「DS」といった先進的なFFモデルを市場に送り出してきたシトロエンは、1956年にFF方式で時速200kmを超える性能を持つ高性能車を製造する事を計画しました。様々な試行錯誤を繰り返した末、目標を上回る性能を持つ2ドアクーペ「SM」を完成させ、1970年のジュネーブショーで発表しました。
DSの基本メカニズムを踏襲
ベースとなったのはDSで、同車に採用されていたシトロエン独自の油圧制御システム「ハイドローリック・システム」と、そのシステムを利用したガスとオイルにより動作するサスペンション「ハイドロ・ニューマチック・サスペンション」が踏襲されました。スタイリングもDSの流れを汲む流麗なもので、ボディ後部を絞りこんだ独特なプロポーションも受け継がれました。
又、本国仕様のヘッドランプはガラスカバーに覆われた角形6灯式が採用され、DS同様最も内側の2灯がステアリング操作に連動して向きを変えるシステムが採用されました。しかし、機械式の動作であったDSに対し、SMではハイドローリック・システムによる油圧式に改められました。一方、北米仕様は保安基準の関係で固定式の丸型4灯式に変更され、日本にもこちらの仕様が輸入されました。
ボディサイズは全長4,893mm×全幅1,836mm×全高1,324mmで、DSよりも長く広く、そして低いディメンションとなった一方、ホイールベースは大幅に短縮され2,950mmとなりました。又、トレッドはリアがフロントよりも200mmも狭い前後比をDSから受け継ぎながら、前後ともワイドトレッド化されフロント:1,526mm/リア:1,326mmとなりました。そして車両重量は大幅に増加し、1,450~1,500kgとなりました。
マセラティ製エンジンにより200km/h超え
エンジンは計画の段階では様々なユニットが検討されたものの、最終的にマセラティ社と提携を結び同社製の2.7L V6DOHCユニットが搭載されました。ウェーバー3連キャブレターを備える初期型のスペックは、最高出力170ps/最大トルク23.5kgmというものでした。トランスミッションはDSのような油圧式セミATではなく、パフォーマンス追求の観点から一般的な機械式5速MTが採用されました。
最高速度は計画を大きく上回る217km/hで、当時のFF量販モデルとして世界最速を誇りました。その他の機構面では、ステアリングシステムはハイドローリック・システムにより動作する点ではDSと同様であったものの、車速が上がるにつれ操舵力が重くなる速度感応型になった事と、強制的にセンターに戻す力が作用する「Diravi」と呼ばれるセルフセンタリングシステムが採用された事が大きな特徴でした。
又、同システムで作動する油圧式ブレーキはリアもディスク式にアップグレードされ、4輪ディスク式となりました。そして1972年、ウェーバー3連キャブレターに代わりボッシュDジェトロニック燃料噴射装置が採用された事で、スペックが最高出力180ps/最大トルク23.7kgmに向上、最高速度も229km/hにアップしました。
次いで翌1973年、北米市場向けにマセラティ製エンジンを3Lにボアアップしたモデルがリリースされました。初期型2.7Lモデル同様ウェーバー3連キャブレターを装備し、最高出力183ps/最大トルク25kgmのアウトプットを発生、トランスミッションは3速トルコン式ATとの組み合わせがメインで、その場合の最高速度は205km/hでした。
その後、経営難に陥ったシトロエンは1974年にプジョーの傘下に収まり、プジョーの意向により翌1975年にマセラティ社との契約は解消されました。それに伴いSMの生産も終了、総生産台数は12,920台で、そのうち日本には134台が輸入されました。