ホンダの軽乗用車「Z」の初代モデルは、1970年10月に軽自動車初のスペシャリティカーとしてデビューを飾りました。性能の高さに定評のあった軽セダン「NⅢ360」のコンポーネンツを流用しつつ、主に若いユーザー層をターゲットとして、それまでの軽自動車には前例のなかった個性的かつスタイリッシュな内外装デザインを採用した事が特徴でした。
ボディ形状はロングノーズの2ドア・ピラードクーペで、NⅢ360を流麗にしたようなプロポーションと、「エアロビジョン」と呼ばれるユニークな形状のグラスハッチが備わるのが特徴でした。又、クーペにも関わらず大人4人が無理なく乗車出来る居住性が備わっていました。ボディサイズは全長2,995mm×全幅1,295mm×全高1,275mmで、NⅢ360よりも70mm下げられた全高は、当時の軽自動車としては最も低いものでした。
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基本メカニズムはNⅢ360と共通
ホイールベースは、プラットフォームを共有するNⅢ360と同一の2,000mmで、車両重量は若干重い510kg~525kgでした。サスペンション形式は、NⅢ360同様の前:ストラット式/後:リジッド・リーフ式が踏襲されました。パワートレインもNⅢ360と共通で、エンジンは360cc空冷SOHC直2のN360E型シングルキャブ仕様及びツインキャブ仕様で、トランスミッションは4速フルシンクロMT、駆動方式はFFでした。
エンジンのスペックも変更はなく、シングルキャブ仕様が最高出力31ps/8,500rpm、最大トルク3kgm/5,500rpm、ツインキャブ仕様が最高出力36ps/9,000rpm、最大トルク3.2kgm/7,000rpmでした。一方インテリアは、「フライトコクピット」と呼ばれる航空機のコクピットをモチーフにしたインパネが採用され、3スポークステアリングやバケットシートの採用と相まってスポーティな雰囲気を醸しました。
グレード体系は、下から「ACT」「PRO」「TS」「GT」の4種類で、「TS」「GT」はツインキャブエンジンが搭載される他、室内にオーバーヘッドパネルが装備されました。そして1971年1月、「GT」をベースにドグミッション方式の5速MTやサーボ付前輪ディスクブレーキ、145SR10ラジアルタイヤ、専用スポーツシートを装備した最上級グレード「GS」が追加されました。
短期間に頻繁な仕様変更を実施
次いで翌2月、シングルキャブ仕様の「ホリデイ」「カスタム」「オートマチック」、ツインキャブ仕様の「GTL」の4グレードからなる「ゴールデンシリーズ」が追加され、従来のグレードは「ダイナミックシリーズ」と命名されました。そして同年12月にマイナーチェンジを実施し、プラットフォームとパワートレインが同年5月に発売された「ライフ」のものに変更されました。
ホンダZのCM
それに伴い、ホイールベースが80mm延長されると共にエクステリアが変更されました。エンジンはバランサー付水冷式のEA型となり、最高出力・最大トルクの数値に変更はなかったものの、振動や騒音が改善されました。又、水冷化に伴いヒーターが温水式に改められ性能が向上した他、ベンチレーションシステムも改良されました。その他、ホイールベース拡大に伴いドライビングポジションも改善されました。
同時にグレード体系も変更され、まず先行して登場したダイナミックシリーズが「TS」「GT」「GL」「GTL」となり、全車ツインキャブ仕様になりました。翌1972年1月にゴールデンシリーズが追加され、こちらもグレード体系が「STD」「DX」「CUS」「AT」に変更されると共に全車シングルキャブ仕様となり、ダイナミックシリーズとのキャラクターの相違が明確になりました。
次いで同年11月に2度目のマイナーチェンジを実施し、ボディがピラーレスハードトップ化されると共に、フロントマスクやリアバンパーの形状などが変更されました。グレード体系は従来の「ダイナミックシリーズ」「ゴールデンシリーズ」の区分けが廃止され、「SS」「GT」「GL」「GSS」の4グレードに簡略化されると共に、全車エンジンが燃料蒸発ガス排出抑止装置付のツインキャブ仕様となりました。
そして1974年、ホンダの軽自動車市場からの撤退に伴い、Zも生産終了となりました。初代Zは僅か4年間の販売期間であったものの、若者層から高い支持を得て人気車種となりました。又、エンジンを「N600」のものに換装した海外向け仕様の「Z600」が、少数ながら欧米に輸出されました。