ホンダの2シータースポーツカー「S600」は、1963年10月に同社初の普通4輪乗用車としてデビューした「S500」の後継モデルとして、1964年3月に発売されました。ボディやシャシー、基本的なメカニズムをS500から踏襲しながら、排気量拡大により更に高性能になると同時に扱い易い性格になり、完成度が一段と高まりました。又、バリエーションも拡大され、本格的な量販スポーツカーへと昇華したモデルになりました。
基本構造はS500譲り
スタイリングは、基本的なプロポーションはS500と同一ながら、ラジエーターグリルとフロントバンパーのデザイン変更やヘッドランプのカバーが廃止されるなどの相違により、S500との識別が可能でした。ボディサイズは全長3,300mm×全幅1,430mm×全高1,200mm、ホイールベースは2,000mmでS500から変更はなく、車両重量は20kg増加して695kgになりました。
又、ラダーフレームと鋼板ボディを組み合わせたボディ構造や、前:ダブルウィッシュボーン/トーションバー式、後:トレーリングアーム/コイル式による4輪独立懸架サスペンション、ユニークなチェーンドライブによるFR方式などの基本構造も、S500からそのまま踏襲されました。エンジンは、S500の533cc水冷4サイクル4気筒DOHC4連キャブレター仕様をベースに、ボア&ストロークの拡大により排気量を606ccとしたものが搭載されました。
ホンダ S600のCM
驚異的なエンジン性能
スペックは、最高出力が13psアップの57ps/8,500rpm、最大トルクが0.6kgmアップの5.2kgm/5,500rpmで、リッター当たり出力はS500を大きく上回る94psに達しました。又、最高出力の数値は、排気量が倍近い1.1Lエンジンを搭載する「オースチン・ヒーリースプライト」や「MG・ミジェット」に匹敵するものでした。トランスミッションは4速MTを踏襲し、最高速度は15km/hアップした145km/hでした。
バリエーションは、必要最小限な装備の標準モデルの他に、ラジオやヒーター、助手席サンバイザーなどの快適装備が備わるデラックス版の「S600M」が設定されました。そして翌1965年2月、クローズドボディを持つ「S600クーペ」が追加されました。キャビンから後の部分がリデザインされ、リアクォーターウィンドウが備わるファーストバックの流麗なプロポーションが特徴でした。
フィクスドヘッド化によりボディ剛性が向上した他、当時としては珍しかったテールゲートを備え、「高速時代のビジネスカー」のキャッチフレーズに相応しい実用性を兼ね備えていました。車両重量はオープンタイプよりも20kg増加した715kgでした。S600の総生産台数は、S500よりも遥かに多い1万3千台以上に及び、海外への輸出も行われました。そして1966年1月、後継モデルの「S800」にバトンタッチして生産終了となりました。
先代モデル:S500
後継モデル:S800