ホンダの2シータースポーツカー「S800」は、1966年1月に「S600」の後継モデルとして発売が開始されました。ボディシェルや基本骨格の他、前期型は基本的なメカニズムもS600から踏襲しながら、排気量拡大により一段と高い動力性能を実現しました。又、後期型はドライブトレインの刷新により洗練されたドライブフィールが実現し、Sシリーズの集大成と呼ぶに相応しいモデルになりました。
ダミーのパワーバルジが外観上の特徴
ボディはS600同様カブリオレとクーペが用意され、共に基本的なプロポーションをS600から踏襲しつつ、フロントグリルのデザインが変更されると共にボンネット上にパワーバルジが設けられました。このパワーバルジは、当初エンジンを燃料噴射化する計画があり、ボンネットフードとのクリアランスを稼ぐ為に設けられたものでした。しかし、技術的な理由から燃料噴射化が見送られた為、結果的に実効性のないダミーとなりました。
ボディサイズは全長3,335mm×全幅1,400mm×全高1,200mm、ホイールベースは2,000mmでS600から全長と全幅が若干変更された他、車両重量は25kg増加しカブリオレで720kgになりました。又、ラダーフレームと鋼板ボディを組み合わせたボディ構造をS600から踏襲し、発売当初は前:ダブルウィッシュボーン/トーションバー式、後:トレーリングアーム/コイル式のサスペンション形式やチェーンドライブによるFR方式などもS600と同様でした。
エンジンは、S600の606cc水冷4サイクル4気筒DOHC4連キャブレター仕様を更にボア&ストロークアップし、排気量が791ccまで拡大されました。スペックは最高出力が13psアップの70ps/8,000rpm、最大トルクが1.5kgmアップの6.7kgm/6,000rpmで、トランスミッションは4速MTを踏襲、最高速度は15km/hアップの160km/hまで向上し、ホンダ製4輪車として初の「100マイルカー」となりました。
M/Cでドライブトレインとリアサスペンションを変更
そして同年6月マイナーチェンジを実施し、特徴的だったチェーンドライブが一般的なシャフトドライブに改められると共に、リアサスペンションもオーソドックスな5リンク/コイルによるリジッドアクスル式に変更されました。この変更により、チェーンドライブ特有の騒音や加減速時の癖が解消された反面、トランクスペースが狭くなる副作用が生じました。
そして1968年5月、北米仕様をベースに国内向けに仕様変更を行った「S800M」が発売されました。オートチューニングラジオやヒーターといった快適装備の他、フロントディスクブレーキやラジアルタイヤ、フロントフェンダー上のターンシグナルランプ、ボディ四隅のマーカーなど、安全性向上に直結する装備が備わる豪華版でした。同時に、クーペは廃止されました。
そして1970年5月、ホンダは需要の限られるスポーツカーに見切りを付け生産終了となり、Sシリーズは7年に及ぶ歴史に幕を下ろしました。S800の生産台数は1万1千台を超え、Sシリーズ全体では2万5千台以上が生産されました。
先代モデル:S600