マセラティは1965年のトリノ・ショーで、前年に生産終了となった2ドア・グランツーリスモ「5000GT」の後を継ぐニューモデル2車種を発表、その内の一つが2+2シーターのノッチバック・クーペボディを持つプロトタイプ「メキシコ」でした。翌1966年にパリ・ショーで公開された市販バージョンは、同社製F1マシンのメキシコグランプリ優勝を記念して命名された車名に恥じない高性能モデルに仕上げられていました。
デザインはミケロッティが担当
ボディはモノコック構造で、エクステリア・デザインはカロッツェリア・ヴィニアーレに所属していたジョバンニ・ミケロッティにより手掛けられました。スタイリングは、1961年に登場したクーペ「セブリング」を近代化・洗練させたような雰囲気を備えていました。ボディサイズは全長4,760mm×全幅1,730mm×全高1,350mmで、5000GTやセブリングよりも一回り拡大されていました。
又、ホイールベースもより長い2,640mmに設定され、こうしたディメンション変更に伴い車両重量も大幅に重い1,600kgに増加していました。サスペション形式は、5000GTやセブリングと同様のフロント:ダブルウィッシュボーン式/リア:リジッド・リーフ式を採用し、4輪ディスク式のブレーキやリサーキュレーティング・ボール式のステアリング形式も受け継がれました。
高性能とラグジュアリーさを両立
ホイール&タイヤは、6.50×15ホイールと205VR15タイヤの組み合わせでした。駆動方式はFRを踏襲し、エンジンはプロトタイプの4.9L から若干排気量が縮小された4.7L V8DOHCが採用されました。4基のウェーバー38DCNL5キャブレターを備え、8.5:1の圧縮比から最高出力294ps/5,500rpm・最大トルク40.1kgm/3,800rpmのアウトプットを発生しました。
標準装備となる5速MTを介しての動力性能は、最高速度256km/hを誇りました。一方インテリアは、ウッド製のインパネ、レザー製のシートやドア内張りなどが採用された他、エアコンやパワーウィンドウが標準装備されるなど、マセラティ製グランツーリスモに相応しい豪華なものでした。その他、オプションでパワーステアリングや3速トルコン式ATなどが用意されました。
そして1969年に、初代「クアトロポルテ」に採用されていた4.1L V8DOHCエンジンを搭載するモデルが追加されました。スペックは最高出力264ps/5,500rpm・最大トルク37kgm/3,800rpmで、最高速度240km/hの性能でした。そして両モデル共に、1973年に生産終了となりました。販売面では同時に発表された2シーターモデル「キブリ」と比較して振るわず、総生産台数はキブリの5分の1以下の250台に留まりました。