フォードのスポーティカー「マスタング」の初代モデルは、1964年4月にデビューしました。スタイリングの良さや低廉な価格、巧みな販売戦略などが功を奏し、同社としてはT型フォード以来となる歴史的なベストセラーカーとなりました。同時に、「ポニーカー」という新たなカテゴリーの元祖ともなりました。
2種類のボディと3種類のエンジンでスタート
ベースモデルとなったのはコンベンショナルな4ドアセダンの「ファルコン」で、それとは全く異なるスタイリッシュな2ドアノッチバッククーペとコンバーチブルのボディが架装されました。共にロングノーズ・ショートデッキのプロポーションと、加飾の少ないシンプルなデザイン処理が特徴でした。乗車定員は4人であったものの、後席は狭く実質的に2+2でした。
ボディサイズは全長4,613mm×全幅1,732mm×全高1,298mmで、当時のアメリカ車としてはコンパクトなサイズでした。ホイールベースはファルコンよりも若干短い2,743mmで、車両重量は1,159kg~1,383kgでした。サスペンションは、フロントがダブルウィッシュボーン/コイル式、リアがリジッドアクスル/リーフ式でした。
駆動方式はコンベンショナルなFRで、フロントに搭載されるエンジンは2.8L直6 OHV(最高出力102ps/最大トルク21.6kgm)が基本で、オプションで4.3L V8 OHV(最高出力166ps/最大トルク35.7kgm)と4.7L V8 OHV(最高出力213ps/最大トルク41.5kgm)が設定されました。トランスミッションは、それぞれに3速MTと3速トルコン式ATが設定されました。
ファストバックとハイパフォーマンス版を追加
翌1965年、流麗なクーペボディを持つ「ファストバック」が追加されました。同時に、このファストバックをベースとした究極のハイパフォーマンスモデルとして、高性能スポーツカー「AC・コブラ」を生み出したキャロル・シェルビー率いるシェルビー・アメリカンがチューニングを手掛けた「GT350」が追加されました。
4.7L V8 OHVユニットを最高出力310ps/最大トルク45.5kgmまでチューンナップして搭載し、4速MTとの組み合わせにより、最高速度216km/h、0-400m加速14.9sという優れた動力性能を発揮しました。同時にボディ剛性やサスペンション、ブレーキの強化も行われ、走行性能全般の向上が図られました。
翌1966年には、ベースモデルのエンジンが3.2Lに拡大され、スペックが最高出力122ps/最大トルク26.3kgmに向上しました。同時に、オプションの4.7Lエンジンに最高出力228ps/最大トルク42.2kgm及び最高出力275ps/最大トルク43.1kgmの2種類の高性能版が追加され、4.3L V8はカタログ落ちしました。又、全車に4速MTが追加設定されました。
初代マスタングは、ベースモデルの価格を抑える一方で、フルチョイスシステムの採用によりユーザーが自由に仕様を選べるようにした事が特徴でした。このシステムが成功し、発売開始と共に多数の消費者が販売店に殺到しパニック状態に陥るなど、記録的な滑り出しとなりました。そして、最初の1年間で56万台を販売するという驚異的な大ヒットとなりました。
後継モデル:2代目マスタング