1906年に正式に創立されたイギリスの高級車メーカー、ロールス・ロイスは、1936年に「ファントムⅡ」の後継モデルとなる新型乗用車「ファントムⅢ」をリリースしました。先代からシャシーやパワートレインが一新され、走行性能や快適性が一段と向上しました。しかし、第二次世界大戦の勃発にともない生産期間はわずか3年に留まりました。
従来からプロポーションが変貌
販売方法は従来の慣例に則り、ロールス・ロイス社からはシャシーとメカニカル・コンポーネンツのみが供給され、ボディの架装はフーパー、マリナー、パークウォードといったコーチビルダーにゆだねられる方式が継承されました。ボディ・バリエーションは、フィクスドヘッドボディのリムジンやセダン、クーペのほか、オープンボディのカブリオレも存在しました。
一方エクステリア・デザイン面では、シンボリックな形状のフロントグリルは継承されたものの、ボンネットフードが短縮されたことでプロポーションは大きく変貌しました。シャシーの仕様は従来設定のあったロングホイールベース版が廃止され、ホイールベース3,607mmの標準版のみの設定となりました。ボディサイズは全長5,410mm×全幅1,905mmで、車両重量は2,642kgでした。
V型12気筒エンジンを搭載
駆動方式はコンベンショナルなFRが踏襲され、エンジンはそれまでの7,668cc直列6気筒OHVに代わり、アルミニウム合金製の7,340ccV型12気筒OHVが搭載されました。このエンジンは、2つのディストリビューターとコイル、1気筒あたり2本のスパークプラグが備わるツイン・イグニッション・システムが採用されていました。
最高出力は165hp/3,000rpmで、従来から43hpの向上を果たしていました。トランスミッションは、エンジンから分離された構造の4速MT(ローのみノンシンクロ)が組み合わせられ、最高速度137km/hの性能を発揮しました。サスペンション形式は、従来が前後ともリジッド・アクスル/リーフ式であったのに対し、フロントにダブルウィッシュボーン/コイル式を用いた独立懸架が採用されました。
独立懸架式サスペンションの採用は、ロールス・ロイスとして初のことでした。また、ブレーキはメカニカルサーボ付きの4輪ドラム式が踏襲され、ホイールはワイヤースポークタイプが装着されました。のちに、エンジンの出力向上が図られたほか、トランスミッションがオーバードライブ付きに改良されました。
そして1939年、前述の理由により生産は中止になりました。総生産台数は715台でした。