トヨタの4ドアセダン「トヨペット・マスター」は、1955年1月に初代「トヨペット・クラウン」と同時に発売されました。法人及び個人ユースが前提だったクラウンが専用設計のシャシーを採用したのに対し、タクシー用途として過酷な条件で使用される事を前提に開発されたマスターでは、前身の「トヨペット・スーパー」同様トラック用シャシーが流用されました。
「イタリアンスタイル」を採用
スタイリングは、テールフィンの採用や各部のデコレーションなどアメリカ車の影響が色濃かったクラウンに対し、トヨタ自ら「イタリアンスタイル」と称するプレーンなデザインが採用され、スーパーの後継モデルに相応しい雰囲気を醸していました。又、ドアはユニークな観音開き式を採用したクラウンと異なり、スーパーと同様4枚ともオーソドックスな前ヒンジ式でした。
その他、フロントウィンドウは左右分割式の曲面ガラス採用のクラウンに対し、一体式平面ガラスを採用するなど随所で仕様が異なっていました。ボディサイズは全長4,275mm×全幅1,670mm×全高1,550mmで、クラウンと比較すると全長及び全幅が10mm小さく、全高が25mm高いディメンションでした。スーパーとの比較では全長が5mm、全幅が80mm大きく、全高は50mm低くなっていました。
4輪リジッド・リーフ式のタフなサスペンション
ホイールベースはスーパーより30mm延長され、クラウンと同一の2,530mmでした。又、最低地上高はクラウンより10mm低い200mmとなる一方で、標準床面地上高はそれより50mm高い370mmあった為、乗降性はやや劣っていました。車両重量はスーパーよりも60kg重く、クラウンと同一の1,210kgでした。シャシーはスーパー同様のラダーフレームで、サスペンションは4輪とも5枚バネ採用のリーフ・リジッド式でした。
フロントにダブルウィッシュボーン・コイル独立懸架式、リアに3枚バネ採用のリーフ・リジッド式を採用し、ソフトな乗り心地を実現したクラウンとは対照的に、あくまでも耐久性重視の設計でした。駆動方式はスーパーやクラウンと同様FRで、エンジンもそれらと共通の1.5L直4OHVのR型(最高出力48ps/4,000rpm・最大トルク10kgm/2,400rpm)でした。
トランスミッションはクラウン同様、1速がノンシンクロの3速コラム式MTが組み合わせられ、最高速度100km/hの性能も同一でした。室内はクラウン同様前席ベンチシート採用の6人乗り仕様で、丸型スピードメーターと角型4連メーターが並ぶインパネも共通でした。又、電装系は6Vだったスーパーに対し、クラウンと同じく12Vが採用されました。
販売は振るわず
販売面では、発売当初こそタクシー業界から好評を持って受け入れられたものの、クラウンのサスペンションに十分な耐久性がある事が判明すると、乗り心地や操縦安定性に劣るマスターは敬遠されるようになりました。結局、タクシー用途としてのニーズもクラウンに奪われ、マスターは発売から僅か2年足らずの1956年11月に生産終了となりました。
総生産台数は僅か7,403台に過ぎず、1代限りで終わったものの、シャシーはライトバン/ピックアップの「マスターライン」シリーズに受け継がれました。