いすゞ自動車は、今でこそトラックとバスの専用メーカーになっていますが、かつては乗用車の製造販売も手掛けていました。「ベレット」や「フローリアン」、そして「117クーペ」は、1960年代から70年代前半に掛けての、いすゞを代表する車種でした。
しかし、何れの車種も、企業体力の問題等から然るべき時期になってもフルモデルチェンジを行う事が出来ず、旧態依然のまま販売が続けられました。結果として商品力は低下し、販売台数の低迷に歯止めが掛からない状況でした。
オペル・カデットのボディ及びシャシーを流用
そうした窮地に陥っていたいすゞが、117クーペの発売以来6年ぶりとなる1974年に、満を持して市場に投入したニューモデルが、「ジェミニ(PF50型)」でした。当時、いすゞはGMと提携していた為、ジェミニの開発にあたってはオリジナル設計には拘らず、GMのグローバルカーのオペル版である「カデット」のボディ及びシャシーが流用されました。
当然ながら、日本市場に適合させる為に右ハンドル化やフェンダーミラー化(当時はドアミラーは不可)などの変更が行われ、フロントマスクの意匠等も変更されましたが、基本的なスタイリングはカデットそのものでした。ボディのバリエーションは、2ドアクーペと4ドアセダンが用意されました。
ジェミニのCM ’80
何れも光物が少なくプレーンで、ヨーロピアンテイスト溢れるエクステリアが特徴的で、オーバーデコレーション気味だった当時の国産車を見慣れた消費者に、新鮮な感覚を与えました。
G180型1.6L OHC4気筒
搭載されたエンジンは、いすゞのオリジナルで、フローリアンと同系統のG180型1.6L OHC4気筒シングルキャブ仕様でした。性能面では、最高出力100馬力という、当時の1.6Lクラスとして標準的なスペックを備えていました。
それでも、オリジナルのカデットのエンジンは排気量が1L及び1.2Lだったので、ボディに対して十分過ぎる程のエンジンと言えました。トランスミッションは、当初4速MTのみが用意されましたが、翌年には3速トルコン式ATが追加されました。
駆動方式は、カデットと同様コンベンショナルなFR方式で、全般的に手堅い設計でした。ジェミニは、オーソドックスな構成ながら基本設計が優れていた為、乗用車としての完成度が高く、その魅力的なスタイリングと相まって、それなりのヒット作となりました。
発売当初の月間販売台数は4千台程
発売当初の月間販売台数は4千台程でしたが、販売網が貧弱だったいすゞとしては上々であり、それまでのベレットやフローリアンが月間千台を下回る程不振だったのと比べると、隔世の感がありました。
ただし、モデルのライフサイクルが極めて長いという、いすゞの特徴はジェミニにも当てはまり、年数の経過と共に次第に販売は低迷傾向となりました。
結局、次期モデルにバトンタッチされたのは、発売から13年間後の1987年の事でしたが、その間に本家のカデットは2度フルモデルチェンジを実施しています。それを後目に同一モデルの生産を続けたいすゞは、ある意味で突出した個性を持ったメーカーと言えました。
後継モデル:2代目ジェミニ