日産のスペシャリティカー「シルビア」の初代モデルは、1964年の東京モーターショーで発表され、翌1965年4月に発売が開始されました。シャシーは旧式ながら、美しいスタイリングと優れた動力性能を備え、高価な価格と相まって従来の国産車にはない孤高のパーソナルカーとして異彩を放ちました。
スタイリングは世界第一級
ボディ形状は、ロングノーズ・ショートデッキのプロポーションを持つ2ドアノッチバッククーペで、乗車定員2人という割り切った設計でした。スタイリングは、直線を多用したシャープなボディラインと、宝石のカットを彷彿とさせる造形が特徴で、日産はこのデザインを「クリスプカット」と称していました。
その洗練された造形美は、当時の国産車の水準を遥かに超え、欧米車にも全く見劣りのしない第一級のものでした。ボディサイズは全長3,985mm×全幅1,510mm×全高1,275mmで、車両重量は980kgでした。シャシーは、1950年代に設計されたセダン「ダットサン・1000」から踏襲したラダーフレームに、補強を加え剛性を高めたものが使用されました。
2シータースポーツカー「ダットサン・フェアレディ1600 (SP311)」とも共有されるものでしたが、欧米では既にモノコックボディが主流になっていた為、相対的に旧式な印象は否めませんでした。サスペンションは、これもフェアレディ同様、フロントがダブルウィッシュボーン/コイル式、リアがリジッド/リーフ式でした。ブレーキは、フロントがディスク、リアがドラムでした。
インテリアは、リクライニング式バケットシートやウッドステアリングが採用された、スポーティかつラグジュアリーなものでした。搭載されたエンジンは、1.6L直4OHV SUツインキャブ仕様のR型で、最高出力90ps/6,000rpm、最大トルク13.5kgm/4,000rpmのスペックでした。トランスミッションはポルシェタイプのサーボシンクロを備える4速MTで、駆動方式はFRでした。
動力性能も一流ながら、流麗なクーペは高嶺の花
動力性能は、カタログ値で最高速度165km/h、0-400m加速17.9sで、後に自動車専門誌により行われたテストではこれを上回る数値をマークするなど、このクラスとして世界でも第一級の水準にありました。しかし、操縦安定性や乗り心地は当時の国産車の平均レベルを大きく超えないものであり、スタイリングや動力性能とのバランスにはやや欠けていました。
同じエンジンを搭載するフェアレディより3割ほど高い価格設定であった為、庶民には高値の花であり、この点が販売上のネックとなりました。結局、1968年6月に生産終了となるまでの3年余りの間に、554台が生産されたに留まり、商業的に成功したとは言えませんでした。その後、1975年に2代目モデルが登場するまで、「シルビア」の車名は一旦ラインナップから姿を消す事になりました。
後継モデル:2代目シルビア