ホンダの軽トラック「T360」は、1963年8月に同社初の4輪自動車として発売されました。商用トラックでありながら製造コストを度外視した設計が行われ、スポーツカーでさえも採用例の少なかった高度なメカニズムを持つエンジンを搭載した異色の存在で、当時の軽自動車の水準を遥かに超える性能を備えていました。
新車購入ガイド:【2023最新】N-WGNの値引き 納期 乗り出し価格
新車購入ガイド:【2024最新】N-VANの値引き 納期 乗り出し価格
当時のホンダに見合ったカテゴリー
当時、既に2輪車メーカーとして確固たるポジショニングを獲得していたホンダは、4輪車市場に参入する際の車種を決めるにあたり、店舗面積の限られる2輪車販売店でも扱い易いサイズである事と、より大きな市場ニーズが見込める商用車である事が妥当であるという判断の元、軽トラックという形態に落ち着いた経緯がありました。
ボディはセミキャブオーバー型の2人乗りピックアップトラックで、オプションで幌の装着が可能であった他、荷台のバリエーションとしてフラットデッキやパネルバンも用意されました。ボディサイズは、当時の軽自動車規格に適合する全長2,990mm×全幅1,295mm×全高1,525mmで、車両重量は610kgでした。サスペンションはフロントがウィッシュボーン/コイル式、リアがリジッド/リーフ式のオーソドックスな形式でした。
トラックらしからぬエンジンを搭載
エンジンは、2シータースポーツカーの「S360」と共用する事を前提に開発された、水冷4サイクル直列4気筒DOHC4キャブレター仕様で、当時としては極めて高度なメカニズムを持つものでした。他社の軽自動車は空冷2気筒が標準的であり、T360同様に水冷4サイクル4気筒エンジンを採用し贅沢なメカニズムとされた「マツダ・キャロル」でさえも、遥かに単純なOHVのシングルキャブレター仕様でした。
スペックも又軽トラック離れした飛び抜けたもので、僅か360ccの排気量から30ps/8,500rpmの最高出力と、2.7kgm/6,500rpmの最大トルクを絞り出しました。当時の一般的な軽自動車の最高出力は18ps~20ps程度であり、最大トルクも4サイクル車の場合2kgm程度であった事を考えれば、驚異的なスペックでした。又、最高速度は100km/hでしたが、当時の軽自動車で100km/hの大台に乗る車種は稀でした。
トランスミッションはコラムシフト式4速MTで、駆動方式は短いボンネットを備える外観とは裏腹に、運転席下にパワートレインを備え後輪を駆動するMR方式でした。後に、製造コストやメンテナンス上の問題から、キャブレターを4連式から2連式に、更に一般的なシングル式に変更しました。
T360は、その高性能から「スポーツトラック」と称され一部のファンから支持されたものの、発売当初の価格が高めの設定だった事や、メカニズムがトラックには不釣り合いな程に高度で信頼性に欠ける面があった事などが影響し、販売面では苦戦しました。そして1967年11月、遥かにシンプルなエンジンを搭載し、実用性を重視した「TN360」にバトンタッチされました。