アウディAGは、アウディNSUアウトウニオンAGを名乗っていた1983年9月、グループBホモロゲーションモデルとなる「スポーツ・クワトロ」を発表しました。それまでは、1980年に世界初の市販フルタイム4WD車としてリリースした「クワトロ(Ur-クワトロ)」がベースの競技仕様車でWRCに参戦していた同社が、戦績の優位を確実にする為に開発したモデルでした。
クワトロから全長とホイールベースを短縮
ベースモデルとなったのはそのクワトロで、前後トルク配分50:50の「クワトロ・システム」は勿論の事、4輪ストラット式のサスペンションなど基本的なメカニズムが踏襲されました。又、2ドアクーペのボディタイプや直線基調のフォルムも受け継がれた一方、ボディサイズは約240mm短く80mm程広い全長4,160mm×全幅1,800mm×全高1,340mmとなっていました。
更に、運動性能を高める為ホイールベースは320mm程短い2,200mmに設定されました。その為前後のオーバーハングが長くなり、視界改善の為クワトロよりも角度の立てられたAピラーと相まって独特なプロポーションを形成していました。車両重量は、ボディ素材に樹脂系の複合素材を用いた為1,000kgと極めて軽く、クワトロに対しては300kg程軽量化されていました。
300psオーバーのエンジンを搭載
エンジンは、クワトロが2,144cc直5DOHC10Vターボを搭載するのに対し、僅かにボアの小さい2,133cc直5DOHC20Vターボが搭載されました。混合気を供給するボッシュ製燃料噴射装置は、K-ジェトロニックに代わりHi-ジェトロニックが採用され、7:1から8:1まで高められた圧縮比から最高出力306ps/6,500rpm・最大トルク33.7kgm/4,500rpmのアウトプットを発生しました。
このスペックは、クワトロの最高出力200ps/5,500rpm・最大トルク29.1kgm/3,500rpmを遥かに凌ぐものでした。トランスミッションは、クワトロとはファイナルレシオなどが僅かに異なる5速MTが組み合わせられ、最高速度はそれよりも30km/h高い250km/hに達しました。ブレーキはクワトロ同様、フロントがベンチレーテッド型の4輪ディスク式が採用されました。
一方室内は、クワトロがフル4シーター仕様であったのに対し、ボディの短縮により後席スペースが縮小され2+2仕様となりました。仕様面では、フロントにはレカロシートが装着された他、クワトロとはデザインの異なる6連メーター装備のインパネが採用されました。その他、軽量化対策としてパワーウィンドゥが廃止された事も特徴でした。
WRCへの参戦は、ホモロゲーション取得に必要な販売台数200台を達成した翌1984年から開始されました。しかし、戦績はさほど芳しいものではなく、翌1985年には競技専用に開発された後継モデル「スポーツ・クワトロS1」にバトンタッチされました。